店主の個性が生み出す
創意あふれる品々
品書きを開くと「最利そば」「恵比麓須斗(えべれすと)」「あつ次郎」「とらとら」…一見すると不思議な名称のメニューが並ぶ『麺坊 蕎麦博』。奈良県・和歌山県にも隣接する河内長野市に店を構える。店主・望月興博さんは山梨県出身で、東京都内のそば店で10年ほど修業し、大阪府堺市で親戚が営んでいたうどん店で働いた経験を持つ。その後、独立開業したのが1976(昭和51)年のことだ。
「当時は大阪の地理にあまり詳しくなくて、河内長野がどういう場所かあまり知りませんでした。創業当時はそば店はなく、うどん店しかなかったので、当地で出店を決め、地域の方にそばに関心をもってもらうように努めました。今では年末に4,000食のそばを売るまでになりました」と望月さんは話す。現在、最初に開業した店舗は「七望流蕎麦道場」として、一般の愛好者がそば打ちを学ぶ場となっている。以前は出前もしていた『麺坊 蕎麦博』だが、時代の変化にともない3年ほど前に出前をやめた。
店の一番のこだわりというのが薬味だ。関西の麺類店の薬味が今一つもの足りないと考え、専用の台をあつらえ、青ネギ・わさび・紅葉おろし・うずらの卵の4種類を提供する。望月さん自身は関東で修業したこともあり、白ネギの方が好みなのだが、関西ではやはり青ネギが好まれる。「親戚のうどん店での経験があったものの、最初の3年間は関西の方に好まれる味を考えてかなり勉強しました」という。そうした努力の甲斐もあって、当地を代表するそば店となった。昨年公開された映画『鬼ガール』は、地元出身の瀧川元気監督の作品ということで、撮影場所に提供やスタッフの食事などを担当した。店では「鬼盛鬼おろし」や「おとも団子」など映画とのコラボメニューも提供している。
望月さんが大切にしていることは、そば店はそばがメインであるということだ。「お客様がそばを食べて、おかわりしてくれる。それが何よりうれしい。「さくら」というおかわり用のそばを用意しているのですが、結構出ます」と話す。3人前の量がある「恵比麓須斗」や、4人前のそばを賑やかに味わってほしいという「夢六」などは、自慢のそばが主役の品だ。
そば店のない場所で商売をはじめて45年。「最初に始めた店は他の店を気にしないで良いんですよ」と笑顔で話す望月さん。店主の個性と創意工夫が『麺坊 蕎麦博』の基礎となっている。