妥協しない店主の想いが
お客様に伝わる
『武蔵野』はかつて大阪市江戸堀にあったが、2015(平成27)年に斜め向かいの京町堀に移転した。昼は『江戸堀 武蔵野』として、創業以来の地元密着の麺類店として営業、木・金曜日の夜は『京町堀 武蔵』として、ワンランク上のそばと酒肴を提供する店として営業している。2代目店主・髙地潤治郎さんは、1965(昭和40)年に大阪市内の麺類店で修業後に創業した初代・髙地栄三さんから店を受け継ぎ、新たな店とコンセプトを作り出した。『武蔵野』の屋号は江戸堀で創業したため、江戸から想起して『武蔵野』とした。
昼は近隣で働く人々に手頃な価格で麺類や丼物などを提供、最近はマンションも増えてきたため週末も忙しいという。品書きは定番の品が並び、先代の頃から変わらない濃い目の味を継承、常滑焼の甕で十分寝かせたかえしを使い、うどんよりもそばが中心の営業も『武蔵野』の歴史だ。定番商品の他に食材の仕入れにより変わるオリジナルメニューを提供する。取材時は長野県産の辛味大根を使用した「信州親田の辛味大根おろしそば」「泉州水ナスつけそば」「平田牧場の三元豚そば」など9種類を提供していた。
週に2日間だけだが夜の営業を行う。夜ははらりと品書きが代わり、2種類の手打ちそば(丸抜き・玄挽き)と数種類のそば、定番の一品料理の他に高地さんがその時々に仕入れた食材を使う酒肴が並ぶ。多くが食材の産地を明記し、一工夫加えた品だ。昼夜の営業を問わず、『武蔵野』がお客様に支持されるのは高地さんの妥協しない姿勢だ。早朝から仕入れに出かけてよりよい食材を吟味、送料が高くても良いものは取り寄せる。そばは風味が強い常陸秋そば(新そばの季節は他産地も併用)を使用している。「1人で調理しており、なるべく作り立てを提供したいのでどうしても時間がかかる時がありますが、お客様は待ってくれます」と、高地さんの想いをお客様も理解していることが伺える。
店主個人の一方的なこだわりだけではお客様は離れてしまう。高地さんのように、お客様により良いものを提供するためのこだわりが、お客様にも十分に伝わっているといえる。