多彩な人生経験を活かし
地域に愛される店を作る
JR学園都市線・新琴似駅、札幌市営地下鉄南北線・麻生駅のいずれからも車で5分ほどの場所に店を構える『松盛庵』は1989(平成元)年創業、今年で開業35周年を迎える。創業者の松井敦利さんは、そば店の跡継ぎではなく、最初からそば店を始めたわけでもない、一風変わった経歴の持ち主だ。松井さんは「店を始めた当時は店から先は何もない場所で、開店後に宅地化が進みました。この場所は小学校の同級生の父親が持っていた土地で、最初は借りて店を始めました。札幌市内も探したのですが、自身の実家にも近いこの場所で店を始めることにしました。業者の方にも場所が良くないと言われました」と話す。
創業以来のモットーは『庶民のための高級そばや』を掲げている。これは、価格は抑えながら、良い食材を使った本物のそばを味わってほしいという考えから生まれたものだ。その言葉を体現するように、そばは北海道産のそばを2種類ブレンド、白く細い更科そばを打つ。ゆで時間にも注意が必要な上品なそばだ。つゆは創業以来継ぎ足しているかえしに自店で削る鰹節でとる出汁を合わせ、すっきりとした味に仕上げる。品書きには単品からセットメニューまで、様々な客層に対応できる品が並び、どれも丁寧に作られていることがわかる。
地域貢献や防犯パトロールなどのボランティアに積極的に関わっていることも特筆すべきことだ。「飲食店を営業している以上、地域に対して自分ができることはするのは当然」と松井さんは話すが、老舗で学んだ技術を活かし、専門店の味を守りながら地域活動にも尽力することは決して容易なことではない。
『松盛庵』は、新型コロナウイルス感染症の影響を機に店の営業時間を昼のみにした。人員確保の難しさもあるが、これからは家族・夫婦(由美夫人)の時間を大切にしようという気持ちもあった。多彩な人生経験を糧に地域に愛される店を作り上げた松井さん。立地条件から、地元のお客様を大事にし、地域社会に貢献することが重要だという考えは、決して間違っていないことを証明している。