店主が研究を重ねた
感動を生む細打ちのそば
「私が理想とするそばは、細打ちでつるつる、しゃきしゃきしたそばです」と話す山川純司さんは、山形市内に店を構える『手打 梅蕎麦』の4代目店主だ。江戸時代末期頃に創業したという『手打 梅蕎麦』は現在昼のみの営業で、連日行列ができるそば店として知られている。早い時は12時代に売り切れ仕舞となってしまうので、お客様は山川さんが打つそばを目指して開店前から足を運ぶ。
もともと機械製麺だった『手打 梅蕎麦』だが、山川さんの弟・山川敦司さん(山形市内で『手打そば 竹ふく』を経営)が、東京にある老舗『神田まつや』で6年間修業した後に手打ちを学び、切り替えた。また、製粉についての知識を深めようと自家製粉も開始した。現在は使用するそば粉を製粉会社からそば粉の状態で仕入れているが、自家製粉をしたために粉の挽き方や篩の種類などを知り、製粉会社にも細かく注文ができるようになった。そば粉は県内産「でわかおり」を中心に、その時に良いものを仕入れている。山川さんはもともと細いそばが好きで、機械製麺の頃も細く製麺していた。手打ちに切り替え、さらに極細ともいえる細さの現在のそばが出来上がった。そばは十割で打つ。変わりそばは二八で、さくら、茶、青しそ、菊、ゆずを季節毎に提供している。2種類のそばが味わえる『二色せいろ』は看板商品だ。そばを存分に味わいたいという方には、山形ならではの「板そば」(2人前)。「大板そば」(3人前)も用意している。
山川さんは「以前は日によって自分が満足する細さにできなかったこともあったのですが、コロナ禍で時間に余裕ができたので、この機会に製麺について見直そうと考え、研究しました。そうしたら満足できるような理想的なそばができるようになりました」と話す。山川さんの研究の成果は、お客様にも伝わった。ネットの口コミサイトでは『手打 梅蕎麦』と『手打そば 竹ふく』がそば店のランキングで上位100店舗の中に入った。そうした効果もあり、全国各地から山川さんの打つそばを求めて来店があるという。
飲食店は顧客満足より顧客感動の時代になったというのが山川さんの経営理念だ。お客様が感動する品を提供すれば立地や価格は関係ない、その品を目的にお客様は来店してくれる。『手打 梅蕎麦』は山形駅からも少し離れた住宅街の中に立地し、価格設定も周囲の平均的な価格よりも高めだが、お客様が途切れることはない。そして何よりも自身が楽しく仕事をすることが大事だともいう。現在、山川さんは毎日そばを打つのが何よりも楽しいと話す。自身が研究を重ねたそばがお客様に感動を与える。これ以上うれしいことはない。