自身を奮い立たせ
新たなスタートを
兵庫県小野市の粟生駅と加西市の北条町駅を結ぶ北条鉄道の網引駅前に昨年10月15日に新たなそば店が開店した。『手打ち駅前そば あびき』だ。本格的な手打ちそばを味わえる店として開店直後から客足が絶えない。店主は兵庫県組合理事長の箱﨑孝治さんだ。
神戸電鉄に勤務していた箱﨑さんは、会社勤めの傍らそば打ちに興味を持ち、20年ほど前に退職、プロの道を歩むことになった。神戸市北区で手打ちそば店『一孝庵』を開業、地域でも有数の店に育て上げた。一方でそば打ちの技術継承にも貢献し、多くの弟子の育成にも携わった。その後『一孝庵』はそば打ちの弟子の方に譲り、そばの製粉業を中心に営業していた。「私が脱サラしてそば店をはじめてから支えてくれていたのは妻でした。その妻を一昨年亡くし、とても落ち込んでいました。でも、いつまでも落ち込んでいるわけにもいかない、もう1度頑張ってみようと思い、新たな店を始めることにしたのです。やってみるとそば店は楽しい商売だと、改めて思いました」と開店の動機を話してくれた。網引駅前に野菜の直売所として使われていた建物がちょうど空いており、鉄道会社の方に相談、駅の活性化にもつながると話が進み、開店へと至った。店名は直売所時代の『あびき』を継承、『手打ち駅前そば』を冠した。北条鉄道が鉄道ファンに人気がある国鉄時代の車両を導入したことで、写真撮影に訪れる鉄道ファンも来店する。駅前の大イチョウは地域の名物で、葉が色づく秋には多くの見物客も訪れ、店にもたくさんのお客様が来店した。
そば粉は自ら経営する製粉所で挽いたものを使う。主な産地は福井県産で、取材時は福井県あわら市産の在来種を使用、太めに打たれたそばは色も良く、在来種を使っているので風味も強い。つゆは兵庫県佐用町の3年熟成の醤油を使ったかえしを1ヶ月以上寝かせ、北海道産昆布と鹿児島県産本節でとっただしと合わせる。まだ開店したばかりで、品書きは6種類と少ないが、様子を見ながら増やしていく予定だ。
駅前とはいえ、ローカル線の小さな駅で、集客の心配もあったものの、その杞憂を振り払うかのようにリピーターも増えている。しかし何よりも、それまで箱﨑さんが培ってきた技術と、自ら製粉するそば粉など、本物の材料を使った手打ちそばの味がお客様を引き付けているからに他ならない