そばと和食の融合
常に進化を続ける店
現在放送中のNHK大河ドラマの舞台でもある鎌倉は、年間を通じて多くの観光客でにぎわう場所だ。鎌倉駅近くから続く若宮大路の突き当りには鶴岡八幡宮が鎮座する。この近くで1924(大正13)年から店を構える老舗そば店が『峰本』だ。
鎌倉本店を含め、鎌倉市内外に6店舗を展開している。また、鎌倉本店の向かい側には北条氏の遺跡を展示し、有料のトイレを備えたビルを所有し、地域振興に一役買っている。『峰本』の特徴はそばと和食を融合し、日常的に味わう贅沢を提供している点で、客単価が一般的なそば店の倍以上あるのもそのためだ。この礎を築いたのが、2代目店主で現在は会長を務める長戸芳郎氏である。芳郎氏は売上の大半を地元の出前が占めていた店を、鎌倉の観光地化の進展とともに増える観光客に対応すべく工夫を重ねてきた。「鎌倉もよう」「磯しぶき」など、湘南を感じさせる創作メニューを考案、色々なものを食べたいというお客様の希望を叶えながら、そばも味わえる品々を考案してきた。和食の要素を取り入れることでメニューの幅も広がった。地元の食材や鎌倉の名所の要素も取り入れるメニュー作りは今も続いている。目を引く写真入りメニューも自ら製作し、同業の仲間に自身の体験談や、ノウハウを惜しみなく講演するなど、業界の発展にも貢献してきた。
現在、大転換した『峰本』の陣頭指揮を執るのは3代目店主・長戸久幸さん。久幸さんも現状に甘んじることなく、常に新たな思考を店の経営に加えている。観光地に大打撃を与える新型コロナウイルス感染症は、観光客をメインターゲットにしている『峰本』にとって危機的状況であることは言うまでもない。久幸さんは「売上は7割位まで回復してきていますが、団体客の減少でそれ以上に回復しない。夏の第7波の感染拡大で9月の予約もキャンセルになっています。政府にははっきりした対応をしほしいですね」と話す。しかし、ただ耐えているだけではない。コロナ禍で流通が停滞した地元のしらすを活かした新メニューの考案や夜の営業の集中化など、久幸さんは経営上の努力を惜しまない。さらに、ウクライナ情勢を見据えて米粉の活用や最低賃金の大幅な引上げを考慮した人材確保など、さらに先を見据えた施策にも取り組んでいる。久幸さんに店の今後を尋ねると「これからやりたいのは小規模で、本当にゆでたてのそばを提供する店をやってみたい。どんな店でも調理してからお客様に出すまでには数分かかります。その数分をなくして、ゆでたてのそばをすぐお客様に出せるような店が理想です」という。ワンランク上のそば店を目指した2代目、それを受け継ぎさらに発展させようとする3代目、『峰本』は常に進化する店である。
<店舗ホームページ>
http://www5a.biglobe.ne.jp/~minemoto