そばの散歩道

お店紹介

各地の名店

明治創業以来の店を
若き店主が守る

 熊本駅から車で10分ほど、熊本電鉄・藤崎宮前駅の対面に位置する『山本屋食堂』は、創業1877(明治10)年の老舗食堂だ。現店主・山本徳系さんは6代目に当たる。山本さんは、東京の大学を卒業後、銀座の日本料理店で修業を積み、熊本に戻り店を継いだ。
 山本さんは「創業年以前も他の商売をしていたようです。曾祖母や祖父の話では藤崎宮前駅の場所にかつては米の集積所があり、阿蘇や菊池の農家が馬車で米を運んできて、その際に食事をする食堂として営業していたとのことです。当時の農家の方は米を卸して得たお金を使い、当店で食事をしてきたというのが自慢だったそうで、街中よりも近隣の山村での評判の方が高かったと聞いております」と店の歴史を話してくれた。

『山本屋食堂』の店舗内外観。1階はテーブル席だが、100名以上が収容できる大宴会場や小宴会場を備えている。
 農家の方を相手にしていたこともあり、ご飯は山盛り、おかずは甘辛くそして濃い味付けが特徴で、当時からあるサバや馬肉の煮つけはその味を受け継いでいる。サバも馬肉もかつては比較的安価な食材であったが、手間をかけないと美味しくならない。こうした手間をかけた仕事は現在も受け継がれており、味噌汁に使う麦味噌もすり鉢ですりおろすなどしている。
 食堂として営業してきた『山本屋食堂』だが、そばを扱うようになったのは戦後になってからだ。食糧難のために午前中で店を閉めていた当時、仲間の『政木屋』の正木氏からそばを販売したら商売になると教えを受け、そばを扱うようになった。また、『山本屋食堂』の名物メニューである「雪見丼」は賄いから生まれた商品だという。
家族・従業員が協力し、『山本屋食堂』の名物メニュー「雪見丼」。とろろを雪に見立て、中には馬肉を煮たものが入っている。卵と一緒によく混ぜてから食べる。
「肉そば」は熊本ではやはり馬肉を使用する。甘さがあるがすっきりとした出汁とよく合う。
単品で人気がある「サバの煮付け」は、『山本屋食堂』伝統の一品だ。
  『山本屋食堂』の歴史は熊本の歴史ともいえる。西南戦争で店は被災、燃え残った廃材で急ごしらえで店を造り、その後昭和初期に建てた店舗と併存する形で残っていた。明治期の店舗では馬肉を捌いて販売していたそうで、市内では一番の売上だった。昭和色に建てた建物では戦地への出征祝いも行われたという。戦前の陸軍大演習では米の炊き上げの記録を作るなど、数々のエピソードに暇がないのは、『山本屋食堂』の歴史の長さを物語っている。
 時代は変わり、店の形が変わっても、変わらぬ味を守り続ける『山本屋本店』。熊本の歴史ともに歩み続けてもうすぐ150 年を迎えようとしている。そこに若き店主がいることが何よりも素晴らしいことだ。
<店舗ホームページ>http://yamamotoya.info

山本屋食堂

熊本県熊本市中央区南坪井町7-10

096-352-2900