そばの散歩道

お店紹介

各地の名店

老舗が挑戦する
新たなうどんのスタイル

 金沢における麺類店の始祖である『加登長総本店』から独立した、関戸二郎氏の店で働いていた桐木平次郎氏が『お多福総本店』を開業したのは1909(明治43)年。この本店から1930(昭和5)年に最初にのれん分けした店が『小橋お多福』だ。総本店が閉店した現在、『お多福』の中では一番長い歴史を有し、来年創業90周年を迎える。『お多福』は石川県を中心に北陸地方では良く知られた麺類店ののれんであり、現在も約20店舗が営業している。

『小橋お多福』の外観。
「『饂飩処・釜ごはん 福わ家』の外観とコンロを備えたテーブル席。
 『小橋お多福』の創業者・齊田甚太郎さんは富山県の出身で、戦後仕事を捜していたところ、桐木氏と出会い、「夜泣き車」(屋台)でうどんを販売しながら商売を学び、その後独立、開業した。2代目・齊田太郎さんは、1971(昭和46)年に『饂飩処・福わ家』を開店するなど、現在の経営の基礎を築いた。現在は3代目・齊田豪士さん、4代目・齊田太士さんと弟の雄希さんが店の歴史をつなぐ。8年ほど前に店をリニューアルし、『小橋お多福』『饂飩処・釜ごはん 福わ家』をオープン、2015(平成27)年に『小橋カフェOTABA』を開店した。
『小橋お多福』のオリジナルメニュー「金沢ジャジャメン」。「盛岡じゃじゃ麺」とは異なる、焼きそばの形だ。
「ぎゅう牛饂飩鍋」は、見た目でも味でも満足感が大きい。比較的高めの価格設定でも売れ筋となる。
秋季限定の「あなごれんこん葉づつみ釜ごはん」は、朴葉につつまれた山椒の香りが爽やかに香る。
 『小橋お多福』は伝統的な麺類店のスタイルで、うどん・そば・丼物を提供する。中でも「金沢ジャジャメン」は、1955(昭和30)年に金沢で全国麺類飲食業者大会が開催された時に作られた名物メニューで、金沢らしい甘い風味と具だくさんの焼きそばだ。
 これに対して『饂飩処・釜ごはん 福わ家』は、ワンランク上のうどんを提供する店舗で、単価も高めに設定している。お客様がテーブルのコンロで煮ながら食べる饂飩鍋で、煮えるまでに時間がかかるため、最初に抹茶とお菓子を提供し、うどんを食べた後はご飯を入れておじやにする、コース仕立ての構成になっている。うどんは煮込んでも美味しく食べられるよう、太めに打つ。通常メニューでは「ぎゅう牛饂飩鍋」が一番人気で、外国人観光客には「黒豚饂飩鍋」「鶏すき饂飩鍋」も好評だ。「加賀れんこんすり流し饂飩鍋」「松茸饂飩鍋」など季節限定商品も用意する。『饂飩処・釜ごはん 福わ家』では饂飩鍋の他、釜で1つずつ炊き上げる釜ごはんを提供している。
 「北陸新幹線が開業してから観光客の方は増えました。3年ぐらいしたら減るだろうと思いましたが、5年経った現在でも減らなかったことに驚いています。外国人観光客のお客様も多くなりましたので、メニューには英語の説明文を入れました。来年はいよいよ創業90周年、100年に向けて頑張りたいですね」と、太士さんは最近の状況を話してくれた。
 金沢を代表する麺類店ののれんである『お多福』の伝統を守りながら、専門店の強みを活かして高付加価値商品の提供にも取り組む『小橋お多福』の経営は、今後の麺類店の経営スタイルの答えの1つと言ってもいいだろう。
<店舗ホームページ>https://kobashiotafuku.jp/

小橋お多福、饂飩処・釜ごはん 福わ家

石川県金沢市彦三町1-9-31

076-231-7205