学生たちの憩いの場
第2の故郷となる店
学校の周辺には、学生たちの思い出の飲食店が多い。京都市伏見区の『大鶴』もそうした店の1つといえる。2代目店主・後藤晃さんの父親・後藤勇さんは、兵庫県の出身で、京都市中京区『そば処 大鶴』で修行を積み、千本鳥居で有名な伏見稲荷大社の前を通る府道沿いに店を構えたのが1960(昭和35)年、600メートル程離れた現在地に移転したのは1972(昭和47)年のことだ。
後藤さんは「卒業式シーズンになると学生たちが卒業式に出たそのままの恰好でお礼を言いに来てくれます。入学式が近づくと、親子で来店される方もいます」と話す。周辺には龍谷大学をはじめ、数多くの学校が立地し、『大鶴』は学生や教職員の日常的な食事処として60数年の年月を経てきた。
後藤さんは調理師専門学校と近畿大学の短期大学部商経科卒業後、学んだフランス料理を活かし、ホテルやフレンチレストランに勤めた後、一般企業での勤務も経験した。退職を機に店に入り、勇さんから店で提供する料理について教えを受けた。
『大鶴』の定番の品は定食類だ。ほとんどが1,000円以下の価格設定で、「鶏の天ぷら定食」「若鶏の唐揚げ定食」や「カツ煮定食」などボリュームがある品が売れ筋だ。メインのおかず、サラダ、ごはん、味噌汁、小鉢の他に小そば・うどんも付き、若い学生でも十分に満腹感を得られる。自家製の牛すじ煮を使う「牛すじうどん・そば」「牛すじ煮込定食」は仕入の量に制限がある限定の人気メニューだ。また、京都らしくだし巻き玉子も好評で定食の他、「だし巻とろろそば・うどん」は、大きな玉子焼がインパクトのある麺類の一品だ。
現在は製麺されたものを仕入れている『大鶴』だが、後藤さんは2年ほど前から支部の青年部主催の手打ちそばの講習会で手打ちそばの技術を学んでいる。道具も一式揃え、今後は機械製麺も含めて自家製麺にも取り組みたいと考えている。
昨年の最初の緊急事態宣言では大学の授業のほとんどがリモート講義となった関係で、学生の来店もほとんどなくなったが、キャンパスに人が戻るにつれて、少しずつ店にも活気が戻ってきた。現在は感染対策の実施や、営業時間の短縮等、京都府・京都市の要請に沿って営業を続けている。学生にとってもコロナ禍で大変なことは多いと思うが、学校近くの『大鶴』のような家庭的な店が営業していることは束の間の憩いの時間になっていることは間違いない。後藤晃さん・和江さん夫婦がどんな時でも笑顔で迎えてくれる店は、学生の第2の故郷なのだ。