自身の経験と趣味から
「そば甚句」を生み出す
埼玉県吉川市の『大むら』は江戸川を渡ると千葉県野田市という立地だ。店主・岡田謙さんが、埼玉県川口市『杉うら』で13年の修業した後に1980(昭和55)年に独立・開店した。1999(平成11)年には2階に宴会場を備えた現在の店舗に建て替えた。岡田さんは「出前は野田まで行きます。弁当も作って配達するし、カラオケ付きの宴会も引き受けます。何でもやらないとこの場所で営業するのは大変です。夫婦2人で頑張ってやってきました」と笑顔で話す。
店の周囲には工業団地や倉庫などが並び、周辺で働く方が主な客層だ。工事現場などで働く方なども多いこともあり、ミニ丼と麺類のセットメニューが売れ筋だが、単品でも十分なボリュームがある。中でも国産の豚ロース使用のトンカツを使ったメニューが好評で、『かつ丼セット』をはじめ、『カツライス』『カツカレー』など、そば店らしさと素材にこだわったとんかつの組み合わせがお客様に喜ばれている。
愛知県田原市出身の岡田さんは、今年から故郷の味である八丁味噌を使った新メニューを売り出した。それが『味噌カツ丼』と『味噌カツライス』だ。従来から好評を得ているトンカツを八丁味噌で味わう2品は、発売して間がないが人気商品になりつつある。味噌だれは、別に提供し、お客様の好みの量をかけていただくようにしている。そばは「常陸秋そば」を使用し、辛汁は薄めの味付けにしている。多めにそばをつけても食べられるようにしていることと、来店頻度の多いお客様でも食べ飽きないようにする工夫でもある。そばの他にうどん・ラーメンも提供し、セットメニューでは3種類の麺類から選べるようにしている。
岡田さんは史跡めぐりなどが好きで、そば切り発祥の地などを探訪するなどしてきた。また、読書も好きで仕事の合間には時間を見つけて本を読んでいるという。こうして得た知識を基に自ら考えだしたのが「そば甚句」だ。自身のこれまでの人生経験と学んだ知識がベースになっている「そば甚句」は、岡田さんの自慢だ。「様々な甚句の中にそば甚句がないので、考え始めたのがきっかけです。仕事をしながらも考えたり、暗誦したりしています」と話す。お客様を喜ばせたいという岡田さんの経営姿勢が、店を40年以上続けてきた原動力だ。そして何よりも大きな力になっているのはヒロコ夫人の存在だ。現在、店は夫婦2人で営業しているが、店舗営業に出前、岡田さんは埼玉県組合の副理事長などを務めており多方面で積極的に活動している。今は別の仕事に従事しているご子息は、店舗裏に住んでいて「将来、自分たちが動けなくなったら、店を継いでほしいという希望はありますね」と、期待を寄せている。