お客様が慣れ親しんだ味を
受け継ぎ提供する
「店の前は飯田街道で、かつては商店街でした。今は住宅が立ち並び、様子も一変しましたね。名古屋市の中心部にも近いので、住宅地としては人気があり、新たな住民の方も増えました」と話す『三河屋本店』の3代目・黒野浩さん。初代・黒野兼さんが1952(昭和27)年に創業、黒野さんの父親・黒野毅さんが2代目を継ぎ、現在に至っている。
店の2階には宴会場を備え、コロナ禍以前は宴会や法事の需要も多かった。現在はそうした利用は少なくなったが、10月に緊急事態宣言が解除されてからは、週末には家族連れや少人数のグループ客の来店も徐々に回復してきている。駐車場も完備し、店から離れた場所からも来店するお客様も少なくない。
『三河屋本店』では、愛知県の多くの麺類店と同じく、そば・うどん・きしめん・煮込みうどんの4種類の麺類を提供する。黒野さんは、火曜日は昼営業のみにし、麺類の仕込みの時間に充てている。
定番の「みそ煮込」やそば・うどん・きしめんの単品の他に、定食・セット・丼物と、基本的な品書きは全て揃う、地域密着の麺類店だ。暑い夏場はそばがよく売れるが、秋から冬へと気温が下がってくると、「味噌煮込」やうどんが主役へと変わる。
永年にわたり愛される『三河本店』の味の特徴は、代々変えないつゆの味だ。今の味付から見ると甘味の強い味だが、しつこさのないすっきりとした甘みが懐かしさを感じるとともに食べやすい。久しぶりに食べると、いつか食べた味がよみがえる、そんな味なのだ。このつゆに、自家製麺の手間をかけた麺類を合わせれば何も言うことはない。お客様は食べ慣れたいつもの味を求め、『三河屋本店』ののれんをくぐる。
来年は店の創業70周年を迎える。感染症の流行という、戦後経験したことがない危機的な状況にあっても、伝統の味を守る『三河屋本店』のような存在は、地域社会にとっても大変大事な存在である。