来店動機をつくる
「そばがきそば」
「こんなそば見たことないでしょう。好みはあると思いますが、自分でも同じようなそばが出てきたら驚きますよ」と話すのは、茨城県土浦市に店を構えて43年目を迎えた『つけ蕎麦 安曇野』の店主・大谷晴規さんだ。大谷さんが「そばがきそば」と名付けた独特のそばは、その時々で状態の良い玄そばを自家製粉し、つなぎもそば粉の状態によって1~2割調整しながら入れて打つ。加水量は通常の手打ちそばよりもはるかに多く、生麺の状態で触ってみるととても柔らかい。一見しただけで簡単には製麺できないことがわかる。
大谷さんは、東京都内のそば店で10年ほど修業を積み、出身地である当地に戻り独立・開業した。開業当時は一般的なそばを提供していたが、30年ほど前から自家製粉を開始、20年前から「そばがきそば」を提供するようになった。その理由は、立地条件の克服と店売りの強化、差別化だ。『つけ蕎麦 安曇野』はJR常磐線・荒川沖駅からそれほど離れていないものの、住宅地の中にある。こうした不利な立地条件を克服し、お客様の来店動機を生むためには、店独自の商品が必要である。そこで、研究を重ねて開発したのが「そばがきそば」だ。一見すると太打ちの田舎そばだが、独特の製法で作っているだけに食べてみるとただの太いそばではないことがわかる。また、「天ざる」や種物なども提供しているが、「せいろ」と10種類のつけ汁を組み合わせる食べ方が「そばがきそば」を味わうには一番良い。「せいろ」は小・中・得・大名の4種類を用意。大名はゆで上げで約1キロあるが、男女問わず1人で食べる方もいるほどだ。つけ汁は「かも汁」「つくば鶏汁」「kinoko(きのこ)汁」「ぶた汁」「つけ天汁」「カレー汁」「kinoko カレー汁」「野菜カレー汁」「もり汁」「黄金のごま汁」が並ぶ。圧倒的な一番人気は刻んだ鴨肉を使用した「かも汁」で、大谷さんが「これで店がもっている」と言うほどの看板商品だ。基本のもり汁も濃厚な味わいに仕上げており、インパクトのあるそばと相性が良い。
容易に真似できない「そばがきそば」には、地元だけではなく東京や千葉からもこのそばを求めてお客様がやってくる。昨今のエネルギー・食材価格の高騰を受け大幅に価格改定を実施、一時的に来店客数は減ったが、徐々に戻りつつあるという。この店にしかないという一品は、飲食店にとって大変重要な要素であることを再認識させる。