お客様が求めるものを
専門店の味で提供する
茨城県庁の近くに店を構える『そば紀(とし)』は店主の照沼光紀さんが、1999(平成11)年に創業した、いわゆる脱サラのそば店だ。照沼さんは「ちょうど開店した頃に茨城県庁も移転してきました。私は水戸市出身なのですが、両親が現店舗の土地を所有していたので、そこでそば店を始めることにしたのです。しかし、この周辺はそば店の激戦区でした」と話す。
そば店を開店するきっかけは、趣味等でそば打ちを始めたからではなく、雑誌の特集記事がきっかけだったという。独学でそば打ちを学び、開店を決意、店舗を建築した。建築中にはそば打ち教室に通い、そば打ちの腕を磨いた。
『そば紀』のそばは、普通のそばも食べ応えがあるしっかりとしたそばだ。以前は平打ちのそばも提供していたが、今はそば粉を変え、太めに打った「田舎そば」を提供する。「田舎そば」はかなりしっかりした、まさに味わって食べるそばに仕上がっている。「つけ舞茸」など、つゆの味が濃いメニューと合わせてもそばの味を十分に楽しむことができる。そば粉は県内産と北海道産を併用している。
開店以来、20年以上にわたって『そば紀』が、そば店の多く立地する激戦区で営業を続けることができたのはなぜか、手打ちそばの店を一から始めた店は長く続かない店も多い。それは個人的なこだわりが強すぎたり、そばは研究されていても、つゆや料理が一定水準に達していないことが多いからだ。『そば紀』は、お客様が必要としているものを、専門店としてきちんとした形で提供してきたことが、そばの激戦区で生き残ってきた秘訣だといえる。
『そば紀』では、お客様の要望もあり、セットメニューを提供している。また、そばとつゆの相性もとても良い。本がえしを使うもりつゆと、生かえしのかけつゆとつゆも作り分けている。「平日は近隣に勤めている方が多いので、セットメニューが良く売れます。週末になると家族連れや若いカップルなどが来店し、客層がだいぶ変わります」という。また、「カレー南蛮」や「鍋焼きうどん」、人気がある「けんちん」などは提供する時季を限定にし、季節感を大切にすることも忘れていない。
新型コロナウイルス感染症の影響により、夜間休業を実施したり、テイクアウトを始めたりしたが、客席の仕切り板や空間除菌機器の導入など、感染防止対策を徹底しながら、営業を続けている。