江戸野菜や地域に因む
特色ある商品が並ぶ
『きそば 長平(ちょうへい)』が店を構える東京都墨田区東向島は、浅草からも近く、永井荷風『墨東奇譚』の舞台でも知られ、下町風情が色濃く残る場所だ。2代目店主・大坪康明さんは、先代・大坪正彦さんの娘・和子さんとの結婚を機に店に入った。今は3代目・大坪信吾さんも店に入り、親子で営業する。正彦さんは、靴職人をしていたが、1961(昭和36)年に転業し、そば店を開業した。
お客様のほとんどは近隣住民の顔なじみ、出前もする、『きそば長平』はいわゆる町のそば店だ。地域密着で営業しているだけに、新型コロナウイルス感染症のような危機には強い。食事中心の営業ということも手伝って、影響は少ない。本来都心に出勤していた方がテレワークになり、ランチ利用や出前の需要も少なくない。
しかし、昔ながらのことを続けているだけではないのも『きそば長平』の別の一面だ。お客様の舌も肥えている昨今、材料にこだわり、つゆの鰹節は4種類を使用、そばは北海道産を使い、出前も考えて七三で打つ。東京都組合で取り組む「東京二八蕎麦」事業にも賛同し、毎月1回は二八そばを提供している。「普段と同じ価格でサービスして提供しています。お客様にも喜ばれています。出前も二八そばを使うので、のびやすい旨注意書きを添えています」と、お客様への心遣いも忘れない。
そして、地元を愛する大坪さんが提供する品が、墨田区が店の雰囲気や接客まで含めた覆面調査などを実施して認定する「すみだモダン」として認定された3品だ。
その筆頭格は「寺島(てらじま)せいろ」。50種類が登録されている江戸東京野菜の1つ「寺島なす」を天ぷらにしている。寺島は、店が立地する場所の旧町名で、「寺島なす」は江戸時代から宅地化が進行する関東大震災後まで、当地で栽培されていた。一度は失われた「寺島なす」であったが、茨城県の農業研究所に種子が保存されていることが判明し、三鷹市の農家が復活させた。その農家の指導で、地元の小学校でも栽培に成功。地域の伝統野菜がよみがえった。「寺島なす」は丸みがあり、身がふっくらとしている。天ぷらにしても厚みが変わらず、現在流通しているなすよりも味が強い。また、近隣にある木母寺に伝わり、能や歌舞伎の題材としても著名な「梅若伝説」にちなんだ「梅若そば」、かつての地域名にちなんだ「玉の井」そばの3品が『きそば長平』を代表する逸品だ。
そばやつゆというそば店の基本に対しても研究を怠らないことはもちろんだが、地域への愛情を形にした品々の開発、10年ほど前に改装した店舗はバリアフリーにするなど、大坪さんは常に新たな試みに挑戦している。この原動力となっているのは、大坪さんを支える和子夫人・信吾さん、家族のチームワークと、「お客様に喜んでいただけるのがうれしいし、商売をしていてこちらも楽しい」と夫婦で明るく話す大坪さん。こうした雰囲気も飲食店にとっては大事な要素だ。
<すみだモダン「寺島せいろ」紹介ページ>
http://sumida-brand.jp/brand/brand_m/brand04m_015
<すみだモダン「梅若そば」紹介ページ>
http://sumida-brand.jp/brand/brand_m/brand04m_016
<すみだモダン「玉の井そば」紹介ページ>
http://sumida-brand.jp/brand/brand_m/brand2014m_002