そばの散歩道

お店紹介

各地の名店

地域のお客様を大切に
観光客にも対応する店

 千本鳥居で有名な伏見稲荷大社の最寄駅である京阪電鉄・伏見稲荷駅からすぐの『お食事処いなり』は、1959(昭和34)年に、村上文五郎さんが、親戚から店を任されたことが始まりだ。「父は、14歳くらいだったそうですが、親戚が持っていたこの店を任され、親方(職人)を雇って、仕事を教えてもらいながら店を始めたそうです」と話すのは2代目店主・村上源太郎さんだ。創業当時は『いなり餅』という屋号だったが、食事中心の営業形態となってきたことに合わせて『お食事処いなり』に屋号を変えた。

『お食事処いなり』の店舗内外観。派手さはないが、長年地域に愛されてきた店舗は落ち着きがある。
メニューは3 か国語で表示。具材についても英語の説明を表記している。
 創業当時の主な客層は近隣の会社に勤める方で、伏見稲荷大社の参拝客は毎月1日や年末年始などを中心に、それほど多くなかった。しかし、メディアなどで紹介されるにつれて知名度が上がり、有名観光地化してくると、観光客のお客様も増えてきた。日本人だけではなく、珍しい景色を求めて来る外国人観光客も同様だ。そうした中でも地域のお客様を大切にしているのが『お食事処いなり』だ。細めで柔らかい伝統的な京都のうどん、そばや丼物、「いなり寿司」など、安心感のある品が並ぶ。スープから仕込む「ラーメン」は、鶏ガラを使った優しい味わいになっている。外国人のお客様は「カレーうどん」「天ぷら丼ぶり」の注文が多いという。
伝統の味「きつねうどん」。あんかけになった「京たぬきうどん」は寒い時期に欠かせない。
手間をかけて仕込む「ラーメン」はシンプルさと優しい味わいが特徴だ。
伏見稲荷大社の門前だけに「いなり寿司」は欠かせない。「きつねうどん」や「ラーメン」とセットにすることもできる。
 取材時は平日であったが、駅に列車が到着する度に多くの観光客が下車し、お食事処いなり』も、外国人観光客を中心に午後2時を過ぎても客足は絶えない。「コロナが落ち着いて、インバウンド需要が回復してから時間帯に関係なく忙しい時があります。修学旅行生の食事の予約や、日本人の観光客の方も戻ってきて賑わっているのですが、地元の常連のお客様との兼ね合いが難しいです」と村上さんは話す。コロナ禍の間は観光客も減り、大変苦しい時期であったが、そうした中でも地元のお客様は変わらずに来店してくれた。そうしたお客様を大切にしたいというのが村上さんの考えだ。
 オーバーツーリズムが懸念されるほど人気の観光地である京都、中でもSNS 映えする千本通りを有する伏見稲荷大社の観光客は今後も減ることはないだろう。そうした中で、地域の味とお客様を守りながら、新たな時代に対応する『お食事処いなり』の変わらぬ味は国籍を問わず認められる味として認知されている。

お食事処いなり

京都府京都市伏見区 深草一ノ坪町 27

075-641-7585