麺類雑学事典
どじょう
郷土そばのひとつに「どじょうそば」というのがある。といっても、淡水魚のドジョウを使うというわけではない。ドジョウくらいの大きさに切ったそばという意味で、煮込んださまがドジョウに似ているからともいわれる。いずれにしろ、いわば「ドジョウもどき」の太くて短いそばを指す言葉といえる。
ただし、もとからドジョウに似せて短く切っていたのか、長く打ちたいのに短くなってしまうそばをドジョウにたとえたのが始まりで、その言葉のイメージが主体になって短く切るものということになったのか、そのへんの事情はわからない。農山村の素朴なそば(日常食)なので味噌味で食べるようだが、変わったところでは、小豆の塩あんをかけておやつ代わりにしたり、味噌の溜りで味つけした小豆汁で煮る地方もあるそうだ。
一方、うどんの場合は本物のドジョウを使う地方がある。なかでも有名なのが讃岐の打ち込みどじょう(打ち込みどじょううどん)だろう。うどんの国讃岐の冬の郷土料理に野菜とうどんを煮込んだ打ち込み汁(打ち込みうどん)があるが、そのドジョウ版である。
一般的な打ち込み汁は、大根、ゴボウ、ニンジン、里芋などの野菜と油揚げを煮た味噌味の汁に生のままの(茹でない)うどんを入れて煮込むもの。いりこ(煮干し)のだしを使わないことが多いのは、野菜と油揚げのうまみをだしとするからで、これは他の地方の郷土うどんにも共通する特徴だ。ただ讃岐では、このうどんを打つのに塩をほとんど使わないというもっと大きな特徴がある。「土三寒六」で塩を加えたうどんでは、塩辛くて食べられないからだ。そのせいか、うどんも短いのが本来の姿(長い場合は短く切る)ともいわれるが、味つけも昔は醤油味だったという人もいる。
打ち込みどじょうのほうは、讃岐でもとくに東讃地方に伝わる食べ方。味噌味の汁で野菜を煮込み、生うどんを入れてからさっと茹でた丸のドジョウを加えるという。最初からドジョウを野菜と一緒に炒めてから煮込み、だしとする作り方もあるようだ。
ドジョウの旬は夏で栄養価も高い。そのため、古くから各地で夏場のスタミナ源として重宝されてきた魚である。讃岐でもかつては、冬は体の温まる打ち込み汁、夏はどじょう汁というのが相場だったといわれるが、どじょう汁はもともとは晩秋の食べ物だったという説もある。稲刈りを終えた田圃の用水路で溝さらえをすると、泥の中からたくさんのドジョウが出てくる。そのドジョウで打ち込み汁を作ったのが始まりという。しかし田圃にドジョウは付き物だったから、田植えの前後や真夏などにもよく作られるようになったらしい。
ちなみに、最近はいいドジョウが手に入りにくいと嘆く声を聞くが、元禄10年(1697)刊の『本朝食鑑』ですでに、農村で養殖しているドジョウは大きいけれども骨も肉も硬くて味がよくないとしている。