麺類雑学事典
雛祭りとそば
3月3日の雛祭り(桃の節句)といえば、菱餅と白酒、桃の花というのが相場だが、江戸ではもうひとつ、欠かせない供え物があった。そばである。雛そばともいう。
3月3日、またはその翌日に雛壇に供える節句そばで、江戸では4日の雛納めの日にそばを供え、それから雛人形などの雛飾りを仕舞ったものらしい。
文政13年(1830)の自序のある随筆『嬉遊笑覧』は、江戸時代の習慣、風俗などを分類・考証したものだが、「雛流し」として、 「今江戸の俗にひなを取りをさむる時蕎麦を供ふ。何れの頃よりするにか、いと近きことなるべし。こは長き物の延ぶるなど云ふことを祝ふ心に取りたるなるべし」 との記述があるそうだ(ただし、この記述があるのは、昭和初期の刊本のみという)。そばを供えるのは、そばが「長く延びる」ことに縁起をかついだもので、年越しそばなどと同様と説明している。
同書はまた、この風習がいつ頃から始まったのかは不明としているが、明和2年(1765)の川柳、
樟脳をそばの次手に買いにやり
が紹介されていることから、江戸時代中期には、雛そばの習慣が民間で広く行なわ れていたと考えられている。