麺類雑学事典
麺の太さ
そばという麺類が、江戸のそば職人によって完成されたということは、「そばは粋な食べ物」というイメージの大事な根拠のひとつになっている。握りずしと同様に、粋であるためにはどうしても、いなせな江戸っ子の風姿が欠かせないということなのだろう。
そばが江戸の職人仕事として発展したことは、「規格化」という点でも大きな意味があったといえる。過程での調理でなく、技術を売り物にする職人たちが作っていたからこそ、技を競い、競い合うなかで技術が向上し、やがて「常法」が生まれるに至ったからである。その代表的なものが、そばの太さに関する決まり事ともいえる。
江戸時代のいつ頃からなのかは定かではないが、そばの切り幅をいう時、「切りべら○○本」という言葉が使われている。「切りべら」とは、延した生地の厚みよりも包丁で切られた幅のほうが薄いことを表す言葉で、切って薄くしたという意味を持つ。要するに延してたたんだ生地の1寸(約3センチメートル)幅を数える基準として、これを何本に切るかで一本当たりの切り幅を定めたわけである。
いわゆる並そばは「切りべら二三本」で、そばの1本の切り幅は約1.3ミリメートル。そして、切って薄くしたわけだから当然、延した生地の厚みは、切り幅よりもやや厚くなる。つまり、そばの切り口(小口)は正方形ではなく長方形になるわけだ。
こちらも古くからある「そばは角」という言葉は、そばの切り口は角すなわち真四角でなければならないという戒めともされる。ところが江戸のそば職人たちは、麺棒で薄く延ばすよりも切ったほうが楽とばかり、手前勝手な常法を定めたのだともいえる。
「切りべら二三本」はそば職人の仕事の基本であり、つるつると食べるのにちょうどよい太さである。それなら、もっと細くもできるということで、さらに細い細打ちの「規格」も定めてあった。それによると、中細打ちが30~40本、細打ちが40~50本、極細打ちは50~60本という具合。これを1本当たりの切り幅にすると、30本で約1ミリメートル、40本で0.7ミリメートル、60本では0.5ミリメートルとなる。ただし、江戸のそば職人の仕事には太打ちはなかったため、太打ちについての約束事はとくにないのだという。
ちなみに、現在の製麺機では、切り幅は30ミリメートルを切った本数で表され、切り刃番手としてJISによって定められている。一般にそば用とされているのは、18番(1.67ミリメートル)から24番(1.25ミリメートル)まで偶数番の4段階の番手で、二三本という数字は残されていない。
一方、うどんの太さについての決めごとは、江戸以来とくに見当たらないそうだが、1寸を8本に切る(切り幅3.8ミリメートル)のが標準的とされる。ただし、現在の乾麺については、うどん、ひらめん、ひやむぎ、そうめんのそれぞれに、JASで太さが決められている。