そばの散歩道


第44回 河野 一世さん

「子どもたちにこそ、“本物の味”を知ってもらいたい」

第44回 
河野 一世さん
(元・財団法人 味の素 食の文化センター専務理事、学術博士)

河野 一世(こうの かずよ)
学術博士。専門は食文化、調理学。1969年、お茶の水女子大学家政学部(現生活科学部)食物学科卒、同年、味の素株式会社中央研究所入社。その後、広報室へ移り「食」を中心にマスコミ対応業務を担当。1999年財団法人 味の素 食の文化センターへ異動。2002年同センター専務理事就任、2009年9月退職。論文・著書に「カツオの食べ方に関する調査研究」(伝統食品の研究 2004年)、『調理とおいしさの科学』(共著・朝倉書店)ほか多数。

食べ物も人も好き嫌いはありません

第44回 河野 一世さん

― 長年、味の素に勤められましたが、食の分野を選ばれたきっかけは?

河野 それはもう、食べることが好きだったからですよ。親の影響かも知れませんね。私が子どものころ、母はいろんなものを工夫してつくってくれ、いつも「魔法の手みたい」と思っていました。ですから、大学を選ぶときも、「食物科なら何か面白いことがあるかもしれない」という感じでした。

― おふくろの味で、忘れられないものはありますか。

河野 煮物が上手でしたね。たぶん、母は煮物をそれぞれ分けてつくっていたと思うんです。

― 1種類ずつ下ごしらえをして、最後に合わせる。

河野 鰹節削り器もありましたから、きちんとだしを取って。確かに、肉が入っているわけでもないのにコクがあって、すごくおいしかった。「母の味は越せないな」と今も思います。漬け物もおいしかったし、行事食もよくつくっていました。春は草餅や柏餅、お盆やお彼岸にはおはぎ……。

― 河野さんご自身、料理をつくるのは好きですか。

河野 大好きです。いくら疲れていても、台所に立って料理をはじめると、楽しくなって、あれこれつくってしまう。そして、「こんなにおいしものを食べたんだから、明日も頑張ろう」という気持ちになるんです。

― おいしくつくる秘けつは?

河野 やはり素材には気を使います。特に海の物ほど、鮮度は重要ですね。キンキの煮付けだって、全然違います。

― 和洋中、好き嫌いは?

河野 何でも好きです。高校時代の先生が言った言葉で今でも覚えているのが、「食べ物の好き嫌いが多いヤツは人の好き嫌いも多いんだぞ!」。「そうかなあ〜」と思っていましたが、そのころから好き嫌いはなかったし、今の私はいろんな人と話して、食べるのが大好きですから、当たっているかもしれませんね。

味噌味の料理とワイン意外と合うんです

― お酒はいかがですか。

河野 考えてみると、10代のころから飲んでいました(笑)。親が酒豪でしたから、それほど抵抗もなく、ずっと飲み続けています。

― 量もかなり?

第44回 河野 一世さん

河野 最近は落ちたと思いますが、人には「ずいぶん飲みますね」と言われます。

― 晩酌は毎日?

河野 ええ、夫も好きですから。最近はワインが多く、それに合う料理と一緒に毎晩いただいています。ワインは意外と味噌味の料理とも相性がいいんですよ。

― ワイン以外のお酒は?

河野 何でも好きです。暑いときはまずビールだし、料理によって日本酒でも焼酎でも。ウイスキーも昔はよく飲んでいました。紹興酒や老酒もいいですね。

― うらやましいなあ。僕はどこへ行っても「お燗してちょうだい」。

河野 ツウですね。先日、「一どん」という鹿児島の芋焼酎をいただいたんですけど、これはおいしいかった。私は焼酎も原酒で飲むのが好きです。いろんなものを入れると味が分からなくなってしまいますから。

味の素(R)は、最後に“ほんのひと振り”

― 今回は、調味料や隠し味について、ぜひおうかがいしたいと思って来ました。お店でも家庭でも、どうしてみんな、“味の素(R)”をたくさん入れるんでしょうね。

河野 味の素(R)には、適正使用基準があります。例えば、このくらいのラーメンスープなら、このくらいという基準値です。味の素(R)は、微生物の力を借りてサトウキビの糖分からグルタミン酸をつくり出して加工した調味料です。適正量を使っていただければ、素材の持ち味を引き出し、お料理にコクも出ておいしくいただけます。

第44回 河野 一世さん

― 隠し味とも違う、まさに調味料なんですね。

河野 日本には昔から鰹節や昆布、ジャコなどのだしがありますよね。ヨーロッパならブイヨン、中国なら湯(タン)というものがあって、それぞれの食文化をつくってきました。だしというのは縁の下の力持ちで、料理の中で主張はしないけれど、「この煮物おいしい」「このお吸い物、いい味」と感じるのは、だしをしっかりとっているからだと思うんです。豊かな香りもあります。それに比べて、味の素(R)には香りはありません。ですから、文化の違う世界中の、どんな料理にも使うことができるのです。

― なるほど。その点について、もっとPRしていただけるといいですね。最後に、日本の食文化は諸外国と比べてどうですか。

河野 こんなに食べることが好きな民族はいないと思います。ただ最近は、経済事情が重視されてしまい、あまりに安いもの、簡便なものに走りすぎている。子どもたちが、本物の味を知らないまま大人になってしまうことの怖ろしさを感じます。今の時代、いつも手づくりで、きちんとしたものを用意するのは難しいですが、「本物」を知ることは、食だけでなくあらゆるものについて大切だと思います。

(09年7月2日「財団法人 味の素 食の文化センター」にて収録)撮影: STUDIO MAX 高橋昌嗣




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