そばの散歩道


第43回 アイバン オーキンさん

「ラーメン大好き、面白い!知るほどに日本が分かる」

第43回 
アイバン オーキンさん
(ラーメン店主)

アイバン オーキン
1963年ニューヨーク生まれ。コロラド大学で日本語を専攻、大学街で上映された『タンポポ』(監督:伊丹十三)を見てラーメンに興味を抱く。87年初来日の際に、念願の東京ラーメンを食べ歩き、ますます虜に。その後、ニューヨークの名門料理学校に学び、四つ星フレンチレストランシェフなどを経て、2003年再来日。07年より、世田谷区芦花公園で「アイバンラーメン」を始める。著書に『アイバンのラーメン』(リトルモア)。

基本がなければ自分の味はつくれない

第43回 アイバン オーキンさん

― 著書『アイバンのラーメン』に、「料理はジャズである」と書かれていますが、具体的にどういうことですか。

アイバン 料理のことは音楽が一番説明しやすいんです。例えば、プレーヤーは、曲のコードやメロディラインを知らなければうまく演奏することができません。料理も同じで、基本ができていなければ、自由な発想で、素材を生かした調理ができないということです。僕はニューヨークの料理学校で2年間、料理のコードとメロディラインを本格的に学び、レストランでシェフも経験したから、目の前の料理のコードが見えるし、どうすれば欲しい味が出せるか分かります。

― 基本を身に付けるには、やはりかなりの修業が必要?

アイバン 料理人になりたければ、誰かの元で皿洗いから始め、少しずつ習って、クックになり、いつかシェフになれるように修業を重ねるのが一般的ですが、僕の考える修業とは少し違う。厳しすぎる上下関係も嫌いです。

第43回 アイバン オーキン

― 料理の世界ではよく、「味は盗むもの」といいますが…。

アイバン アイバンラーメンの味は、1か月で全部教えます。スタッフは、同じ目的をもった仲間。この店に秘密はないから、僕がいなくてもうまくやっていける。日本には、マスター以外、誰も責任のあることをしない店が多いですね。僕にはそれがまったく理解できません。

麺とスープの味をしっかり感じてほしい

― アイバンさんのラーメンづくりについておうかがいします。メニューを考えるとき、麺が先ですか、それともスープですか。

アイバン ラーメンは、麺からでも、スープからでも、どちらからでもつくれます。だから難しい。

― それはどういう意味?

第43回 アイバン オーキンさん

アイバン 「この麺、おいしい。スープも上出来」と思っても、一緒に食べてみるとうまく合わないことが多い。以前、担々麺のためにつくった麺は、具と混ぜるとすごくおいしいし、よくからむ。だけど、汁そばやつけ麺には合わない。僕は料理人だから、頭の中には常につくりたい味があり、どう舌とうまく合わせるか考えています。こういう麺があったらいいなと思うと、粉を吟味し、鹹水(かんすい)、卵白などを、いろんな配合で組み合わせてみる。

― でも、実際にスープと合わせてみないと分からない。

アイバン そうです。去年、冬限定で豚骨ラーメンを出したいと思った。一口食べたら、心が温かくなるようなスープ。それで、レシピを考え、あれこれ試作して特製スープを完成させ、それに合う麺をつくった。4か月もかかったけど、すごくいい豚骨ラーメンができた。お客さんからも大好評。そのとき使った背脂が僕の定番ラーメンである塩と醤油に合うことが分かり、これまで使っていたラードをやめて、鶏脂と背脂の両方をスープに加えるようになりました。一段とうまみの深い味になったと思っています。

― チャーシューを温めて出している。感心しました。

アイバン たいていの店は冷たいチャーシュー。でも、おいしくないでしょ。炙って出す人もいますが、僕の店では炙りは冷たいスープのときだけ。温かいスープに入れると、味が変わってしまうんです。僕は、スープと麺の味は、はっきり分かってもらいたいと思っています。麺は噛むほどに小麦の香りが口の中で広がり、スープは丸鶏と魚介のうまみがしっかり引き立ち、あっさりだけど、コクがある。そして、お客さんに楽しんで食べてもらいたい。これがアイバンラーメンの規則ね。

おいしければ何でもOKラーメンには自由がある

― オープンから3年目。順調のようですが、ずっとラーメン店を続けられますか。

アイバン 大学3年のとき映画『タンポポ』を見て以来、僕の心の中にはいつもラーメンがありました。ラーメンを知れば知るほど、日本の文化や日本人のことも分かるようになって……ラーメンは、実に奥深く、面白いです。

― そばやうどんは?

アイバン つくることはできますが、店はやりたくないですね。あまりにも日本的すぎて、フレキシブルにできない。ラーメンなら、何をやっても怒られないでしょ。僕の店は、おいしければ何でもOK。

第43回 アイバン オーキン

― 確かにラーメンは長い歴史や伝統がない分、自由にできるんでしょうね。

アイバン ただ、物珍しさだけではお客さんは定着しません。しかも、本場東京で店をやるなら、やはり正統派でなければ。その上で、「アイバンラーメンって店ではニュースタイルの麺を出しているらしいよ」「なかなか頑張ってるみたいだから、食べてみようか」と、思ってもらえるよう、これからもスタッフと試行錯誤を重ね、“本当においしいラーメン”をつくっていきたいと思います。

(09年7月21日「アイバンラーメン」にて収録)撮影: STUDIO MAX 高橋昌嗣




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