そばの散歩道


第36回 山崎洋子さん

夏でも熱燗に湯豆腐軽く一杯が調度いい

第36回 
山崎 洋子さん
(小説家)

山崎 洋子(やまざき ようこ)
1947(昭和22)年京都府生まれ。コピーライター、児童読物作家、脚本家を経て小説家に。1986年『花園の迷宮』で江戸川乱歩賞を受賞。『熱月(テルミドール)』、『赤い崖の女』、『人魚を食べた女』、『天使はブルースを歌う』、『ヴィーナスゴールド』等著書多数。小説を中心に、エッセイ、ノンフィクションの他、近年は舞台も手がける。

憧れの怪しげな町、横浜に暮らして40年

― 山崎さんは最初から小説家としてスタートされたのですか。

山崎 一番最初はコピーライターで、それから子ども向けの本を書きました。映画が好きだったので、脚本家になりたいなと思って脚本も書くようになり、小説家になったのは、38歳のとき『花園の迷宮』で江戸川乱歩賞を取ってから。遅いですよね。

― 脚本と小説はやはり違うんですか。

山崎 違いますね。実は私、小説みたいな緻密な作業が大の苦手で、「シマッタなあ」と今でも思っています。例えば、この部屋を描写する場合、脚本だと「そば屋の部屋」と書いておけばいいんですよ。あとは台詞と構成だけ。しかし小説だと、どんな部屋か、誰がどういう顔で座っているかなど、細かく書かなければダメなんです。

第36回 山崎洋子さん

― ものを書くことは子どものころから好きだったのですか。

山崎 読む方が好きでした。ミステリー一辺倒。映画も好きでよく見ていました。こちらは完璧な娯楽作品。当時は、東映、日活、大映、東宝と、邦画全盛の時代でしたから。

― 僕は東映の時代劇ばかり。

山崎 みんな、それぞれのカラーがあって面白かったですよね。亡くなった主人(山崎巌さん)が脚本家で、日活アクションを書いていました。小林旭の「渡り鳥シリーズ」とか。私は日活映画を見て、怪しげな町、横浜に憧れたんです。

― そういえば、山崎さんの作品は横浜を舞台にしたものが多いですよね。

山崎 はい。ドヤ街とか風俗街とかに興味があって、創作意欲がすごくわくんです。一昨年、30年ほど暮らした横浜の緑区から南区に引っ越しました。この辺りはすごくごちゃごちゃしていて、アジア語が飛び交っている。とても横浜らしい場所で、気に入っています。

― 怖くないですか。

山崎 これが当たり前の横浜だと思っていますから。横浜=欧米人が多いというイメージの方が違っているんですよ。

お銚子一本で気持ちよくなれる

第36回 山崎洋子さん

― お酒はよく飲まれますか。

山崎 必ず晩酌はします。でも、決して強くはないから、たいてい、夜、食事と一緒にお酒をいただくと、皆さん次はバーで一杯となりますが、「すみません、私は帰ります」という感じです。

― ご両親も飲まれなかったのですか。

山崎 いえ、すごい酒飲みです。親譲りだったら、きっとアル中になっていましたね。おそらくお酒を一滴も飲まない方が、私の体にはいいんだと思います。それでも、「軽く一杯」というのは好きです。日本酒を熱燗でね。

― 日本酒は、燗をした方が旨いんですよ。江戸時代などは、ほとんど熱燗です。

山崎 よかった。私は、すごくいいお酒をいただいても、全部お燗しちゃうもんですから。夏でも熱燗です。

― 僕もそうです。それと湯豆腐。

山崎 いいですね、私も冷や奴より湯豆腐です。いつでも一杯やれるように、豆腐は切らせません。

人生最後の食事は絶対、お寿司!

― 食べることはお好きですか。

山崎 一度にたくさんの量はいただけませんが、食べることは大好きですね。若いころは、フランス料理やイタリア料理に憧れますよね。あれも今考えてみたら、素敵なレストランに行きたかっただけで、特に好きでもなかったんだなあと思います。結局、行きつくところは和食で、年齢とともに素朴な味を求めるようになっています。何よりお米が大好きで、毎朝、しっかりご飯を食べています。

― おかずはどんなものを?

山崎 みそ汁に自家製のぬか漬け、焼き魚、残り物の煮物などです。

― 納豆はいかがですか。

山崎 食べますよ。私は関西出身ですから、最初はものすごく抵抗がありました。「こんなまずいものを!」って。おそばも、少しもおいしいと思えなかった。

― 特に、汁そばは色が真っ黒ですからね。

山崎 ええ、なんて下品な食べ物かと思いましたね(笑)。やはり温かいおうどんで、澄んだおつゆじゃないと。でも、だんだん慣れてきて、今では納豆は大好きですし、一杯やるなら、うどんよりおそばです。

― お寿司はいかがですか。

山崎 大好き! 私は、贅沢はいいませんが、お寿司だけは絶対おいしいところで食べないとイヤなんです。ただ、高いものが好きでアワビ、中トロ、ウニなどが定番。ですから、誰かにごちそうしていただく場合は、すごく食べにくいんです。自分でお金を払う方が遠慮なく食べられていいですね。

第36回 山崎洋子さん

― 僕は安いのが好きなんです。マグロなら赤身、タコ、コハダ…。

山崎 あら、それじゃあ、ぜひご一緒して、高いものは私が……。よく死ぬ間際に何が食べたいかとかありますよね。私は、日本で一番といわれるようなお店の特上寿司を食べたいですね。

― お料理はされますか。

山崎 料理は大好きというほどではないんです。でも、一人でお店に食べに行くのが恥ずかしくてね。以前、思い切ってお寿司屋さんに入ったら、誰もお客さんがいなくて、カウンターに一人座って、1対1ですよ。ものすごく居心地が悪かったですね。ですから、たいがいは家で簡単なものをつくって食べています。夏でも一人鍋が多いです。あと、ホテルのルームサービスで一人で食べるのが好きなんです。和食と熱燗を頼んで、パジャマに着替えてのんびりと……。シアワセですよ。

(08年12月19日 「利久庵」(横浜・関内)にて収録)撮影:STUDIO MAX 高橋昌嗣




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