そばの散歩道


第34回 養老孟司さん

子どものころから、”酒とめんと肴“のある暮らしを堪能しています(笑)

第34回 
養老 孟司さん
(解剖学者)

養老 孟司(ようろう たけし)
解剖学者。東京大学名誉教授。1937( 昭和12)年神奈川県生まれ。子どものころから昆虫や動物に興味を持ち、東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。81年同大学医学部教授。脳の研究においても第一人者として知られ、『ヒトの見方』『脳に映る現代』『唯脳論』などの脳科学分野の著書多数。89年『からだの見方』でサントリー学芸賞を受賞。2003年に出版した『バカの壁』はベストセラーとなり、毎日出版文化特別賞受賞。現在、代々木ゼミナール顧問、(財)ソニー教育財団理事等を務める傍ら、執筆活動や講演会、テレビ出演等を精力的にこなす。

今、普通の家族が怖いわけ…

― 養老さんのお宅では、昔からおせちを食べる習慣がありましたか。

養老 もちろん、必ずお屠蘇(とそ)で始まってね。ただ、お袋が開業医で、そばがき以外、何もつくらない人だったから、お雑煮など、子どものころ、どんなものを食べていたか覚えてないんだ。その都度のお手伝いさんの味だったからね。今は女房がつくっています。

― 東京風ですか?

養老 すまし汁だから、京都風かな。おせちといえば一昨年、『普通の家族がいちばん怖い』という本が出版されたのですが、そのテーマがおせちでした。アンケート調査をもとに、日本の変わりゆく食卓の実態をまとめたものですが、これがむちゃくちゃなんです。例えば、元旦の食卓について尋ねるとー「普段どおりに、うどん、パン、肉まん、おにぎり」「ファミレスでサンドイッチやオムライス」「お父さんは磯辺巻き、お母さんは雑煮、長男はインスタントラーメン」……。

― 同じものを食べることはないんですね。

養老 そう、食べる時間もバラバラ。たとえ家族で食卓を囲んでも、それぞれが好きなものを食べる。「日本の伝統文化は守りたい」なんて言いながら、実際は、スーパーで買ってきたおせちを適当に並べるだけという家庭が多いんです。

おろしそばならいくらでも食べられる

― 食べ物の好き嫌いはありますか。

養老 カボチャやサツマイモは食べない。要するに代用食ね。僕の世代はかなり多いんじゃないかな。それ以外は肉でも魚でも、だいたい平気です。

― 最近はお酒を飲まれなくなったようですが…。

養老 疲れるからね。体力のあるうちはいいけど、夜、原稿を書くときに晩酌なんかしたらダメ。書けなくなっちゃう。

― 我慢できるものですか。

養老 たばこは我慢できないけど。僕は酒を飲むと真っ赤になってしまう。今でもそうだから、アルコール分解酵素が少ないことは確かです。それでも、飲めるときはひと晩でウイスキー1本くらい空けていましたけど。

― 麺類はどうですか? 

養老 なんでも食べます。ラーメンも好きだけど、スープがどうのとか、うるさい店が多いから、最近はあまり食べない。僕は麺が食べたいんです。

― そばも汁より麺ですか。

養老 そう。福井の大野出身だから、小さいときからしつけられていたのかもしれない。

第34回 養老孟司さん

― 越前大野は有名なそば処ですよ。

養老 越前そばは、大根おろしとそばが、同じくらいの量で出てきて、自分で勝手に混ぜて食べる。山盛りの大根おろしを見ると、なんか豊かな感じがするよね。いくらでも食えちゃう。うどんやスパゲティーはそういう食べ方はできないね。

― 小麦粉はダメですか。

養老 小麦粉の麺は、味付けをした方がいい。以前、ステーキの後に同じ鉄板でそばを焼いてもらったことがあります。味つけは、塩とコショウで。

― ゆでたそばを?

養老 焼きうどんみたいにするんだけど、これがなかなか旨い。そばも油で上手に調理すると、意外とおいしいんじゃないかな。

― なるほど。そばは昔から汁で食べるくらいでしたから、養老さんのアイデアは、ぜひ、そば店の主人に教えてあげたいですね。

養老 油と組み合わせたのは天ぷらそばくらいでしょ。料理の付け合わせにも使えるし、それこそ、ステーキの脇にのせたっていい。料理への活用がまだ未発達な分、無限に広がりますよ。

外国では必ず現地の人と同じ朝食を

― 海外へ行かれる機会も多いですね。

養老 去年、ラオスに行って面白い経験をしました。山小屋で晩ご飯を食べたとき、野生の栗をゆでて、丼に山盛り出してくれたんです。甘くもないし、「よくこんなもの食うな」と思っていたけど、気づいたら全部食べちゃった。そこでアッと思ったんだ。今私たちが食べている、一瞬「うまい」と感じるものは、実は舌がだまされているに過ぎない。本当においしいものは、大して旨くないけど、いつの間にか食べているものなんだって。そういうのってないですか?

第34回 養老孟司さん

― 酒も、量を飲めるのがうまい酒だと思います。現地食で印象に残っているものは?

養老 現地食はみんな旨いよ。料理の基本は材料でしょ。その土地で一番手に入りやすくて、みんなが食べるものだがら、まず間違いない。

― 地産地消ということですね。

養老 そうです。エジプトを旅行したとき、ホテルの朝食をエジプト風にしてくれって頼んだら、喜んでやってくれてね。ブータンでも「あなたの食べているものをつくってよ」と言ったら、朝がゆが出てきた。これがまた旨かった。NYやヨーロッパの主要ホテルには「ジャパニーズ」というメニューもありますが、特に朝飯は現地食がいいね。その土地のことをよく表していると思うから。

(08年10月7日養老孟司さんのご自宅にて収録)撮影:STUDIO MAX 高橋昌嗣




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