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DNA研究者からソバ博士へ― 先生の経歴にある放射線研究とソバ博士とどういう関係があるのでしょう。 氏原 もともと植物育種学研究室におりまして……。 ― アイソトープの関係ですね。 氏原 はい。当時、放射線とか原子力の研究が盛んで、DNAレベルの突然変異の解析や農業への応用研究を行っていました。そして信州大学へ赴任した際、農林水産省から、国産ソバの生産に力を入れたいから、新しい品種を改良するための研究をやってくれないかと頼まれたのです。それで、3年ほど、日本のソバの実情を調べて回りました。 ― いつごろの話ですか。 氏原 昭和44年からです。 ― 日本全国を歩かれた? 氏原 はい、学生と一緒に北海道から九州の鹿児島まで。あらかじめ全国の農業改良普及所に、20年以上同じ場所でつくり続けた種があるか調べてもらい、それを元に、その地方で昔からつくっている在来種を求めて歩きました。 ― 在来種とは、20年以上同じ地域で育てられているものをいうのですか。 氏原 いえ、20年というのは、私が個人的に区切った基準です。在来種は、非常に農業のしにくい辺境の地で、農民たちが長年かかって守り育て、その地方に適応したものをいいます。 ― で、どうでしたか? 氏原 ほんの数カ所でしたね。ただ、そのときは在来種とはわからず、農家で「おらんとこでつくってるもんだよ」という種を何百種類も集めました。 小粒で、抜群の食味そば麺にもってこい
― もともと信州に在来種はあったのですか? 氏原 「奈川在来」や「番所在来」、「黒姫在来」、「戸隠在来」は今でも入手できます。その他の地域では、福井に「大野在来」、島根に「出雲在来」、九州に「対馬在来」、「大隅在来」、四国には「祖谷(いや)在来」などがあります。今年に入って、千葉で「野呂在来」が見つかり、現在増殖中です。在来種を育てるのは難しく、農家だけではどうしても絶やしてしまう。種を見つけたら、県の試験場などで低温保管し、大切に守っていくことが不可欠です。 ― 在来種の良いところは? 氏原 小粒で、総合的に味が濃い。締まりが良くて、そばを打つには非常にいいですね。 ― 小粒ということは、若干、生産性が低いですね。 氏原 在来種は山間傾斜地に多いので、生産効率はかなり悪いです。しかし、その土地でなければ在来種ならではの良さは発揮できません。ということは、付加価値が非常に高いものとなり、厳選されたところでしか扱えず、一般消費者の手にはなかなか届かない。これでは、ますます在来種を残せなくなってしまう。味の濃いところを生かしつつ他の品種とうまくブレンドするなどして、少しずつでも、多くの人が賞味できるようにしたいものです。 ― 食べる側も、つくる側も、農家を守ろうということですね。 氏原 そうです。在来種の良さをみんなで再認識し、農家に頑張って守り続けてほしいのです。 品種改良は、根気と緻密な作業の結晶― ところで品種改良の方はどうなりましたか。 氏原 「信濃一号」を元に、染色体を通常の2倍体から4倍体にした「信州大そば」(1985年)、赤い花を咲かせる「高嶺ルビー」(1993年)、赤い実をつける「グレートルビー」(1998年)、そして通常ソバの3倍以上のルチンを含む「サンルチン」(2002年)の4種類を、農林水産省に新品種登録しました。今、信州大そばの人気が高く、種が手に入らなくなっています。高嶺ルビーはネパールから持ち帰った種を10年かけて品種改良したものです。
― 新しい品種をつくるときに一番気をつけることは? 氏原 収量アップなど、まずは目標を定め、種子を選抜して隔離して栽培します。隔離するのは、ソバは他家受精の作物だからです。そして、種の半分は保管しておき、一部で形質調査をし、いいものだけ集めて次の年に別のところで育てる。単純作業の繰り返しで、最低でも5年はかかります。 ― いいものの基準は? 氏原 いつ播いても収穫でき、粒がそろっているかどうか。味はとなると――難しいですね。分析してわかるものではありませんから。そば屋も製粉屋も、実際は誰もわからないんですよ。 ― 僕もよくどこのそばがおいしいか聞かれますが、一番なんてあり得ませんよね。 氏原 私もそう思います。ソバを育てる農家も、そばを打つ職人も、みんな真剣勝負。だから、その地方の人がつくりあげたそば屋、みんなで育てあげた味を、大事にしていかなければ……。 (08年8月29日「酒めん肴」編集室にて収録)撮影:幡野好正 |
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