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第24回 三遊亭圓歌さん

落語とそば、今と昔

第24回 二周年記念特別鼎談
三遊亭圓歌さん
鵜飼良平(日麺連会長)
編集長

三遊亭圓歌(さんゆうてい えんか)
本名仲沢信夫。1932(昭和7)年東京生まれ。岩倉鉄道学校(現・岩倉高等学校)卒業。学徒動員で国鉄に就職。山手線新大久保駅の駅員在職中の1945年から、吃音矯正のため二代目三遊亭円歌(64年没)に入門。前座名は歌治。48年、二つ目に昇進、歌奴と改名。58年、戦後入門した噺家最初の真打ちに昇進。67年落語家で初の御前公演。69年「笑点」のレギュラーに。70年圓歌を襲名。85年に出家し、圓法と名乗って噺家と僧侶を兼ねる。96年五代目柳家小さんの後任として八代目落語協会会長(現・九代目会長は鈴々舎馬風)。2006年最高顧問に就任。戦後初の「眼鏡をかけて高座に上がった落語家」といわれる。出囃子は「二つ巴」

以下、(圓)は圓歌師匠、(鵜)は鵜飼会長。

そばを食べるのも
技術がいる?

第24回 三遊亭圓歌さん

― 「酒めん肴」は、この三月号で丸二周年。四月から三年目を迎え、誌面もリニューアルします。そこで記念すべき今号は、三遊亭圓歌師匠をスペシャルゲストに迎え、鵜飼会長との特別鼎談です。まず、落語とそばは昔から関係が深いといいますが……。

圓 落語で有名なのは「時そば」。これが大阪だと「時うどん」になります。それから「うどんや」もあるし、「そば清(蛇含草)」なんてのもある。「そば清」は、そばを食べ過ぎた男が、蛇の使う消化薬代わりの草を食べたのはいいが、そばじゃなくて自分が溶けちゃう。あとにそばが羽織を着て残っていたという噺です。

鵜 そばはかなりお好きなようですね。

圓 大好きです。昔、信州の木曽にあるKというそば屋で初めてうまい田舎そばに出合ったことがある。それまでは江戸前のつるっとしたそばが好きで、いわゆる田舎そばは好きじゃなかった。そこはやみつきになって何度か東京から通いました。30年程前ですが。

第24回 鵜飼良平(日麺連会長)

― 江戸前と田舎そばは、結構違いますか。

鵜 郷土色といいますか、江戸そばはきれいに打つというのが伝統で、細くて白い。地方のそばは江戸そばと比べるとやや太くて黒みがある。味も地方によって違います。それが特色になって、昔のそばを復活させたりするところもある。

― 落語でめん類を出すとき、苦労するのはどんな点ですか。

圓 そばを食べるのを演じるのが一番難しい。昔は食べる仕草をするとき、汁をつけたかつけないかくらいで、そばをすすり込むように演じるんです。今の若い人にはその仕草がわからないから、普段のそばの食べ方と同じになり、演じることができない。昔のそば食いを扱った小話で、臨終のそば好きに、友だちが枕元で「この世に何か思い残すことはないか」と尋ねると、いまわの際の男が答えて曰く「一度でいいからそばに汁をたっぷりつけて食べたかった」(笑)

― そばを格好よく食べるには?

圓 私はヘタだからダメ。小さん師匠はうまかった。でも、彼は実際にそば屋で他に客がいるときは絶対に注文しない。見られていると食べた気がしないと言ってた(笑)。

鵜 彼がうちの店に来たとき、「そばは、噛んで食べるのと噛まずに食べるのと、どっちがおいしいですか?」と聞いたら、「そりゃ噛んで食べた方がうまいに決まってる」と言ってましたね(笑)。

圓 そばを食べる演技は、はやり小さん師匠が一番でしょうね。

― 小ばなしに四七士が討ち入りのとき、そばを食べる。そばが二二、うどんが二五だという。なぜだと聞いたら、赤穂は関西だからうどんがいいという奴もいると(笑)。

東京のそば
地方のそば

第24回 三遊亭圓歌さん

― 食べ方による東京のそばと地方のそばとの違いはありますか。

鵜 東京の場合、小腹が減ったときなどのおやつ代わりにというのがあるでしょうね。

圓 何杯も食べるのは江戸っ子のやることじゃないですよ。反対に先程のKなど地方のそばは、一杯だけで十分なくらいの量がある。最近では長野の上田市の奥、民宿みたいな店のそばがすごくうまかった。家に取り寄せたいと言ったら「こっちへ来て食べてくださいよ」と言われて。二度ほど行きましたが、何しろ遠くてね……。

― 上田には、作家の池波正太郎さん推薦のKがありますね。元・鍛冶屋が始めたそば屋で、太くて硬くて量が多い。大盛りもさほど値段が変わらないので、頼んだら店の人に「やめた方がいいよ」と言われ、「大丈夫だ」と注文したら、これが半端じゃなかった。試しに量ってもらったら800グラム!(笑)普通は200グラムくらいです。

鵜 落語にはもりやざるは出るけど、かけが意外に出てこないですね。私の店はかけのファンが多いんですよ。

圓 上野の「藪」のガラス張りの小部屋で打つのを見るのが楽しみで、早稲田大学教育学部教授の興津要さんなどとよく行きました。興津先生は日本酒がお好きで、小さん師匠などと浅草を飲み歩いていた。江戸文学の大家で、やはり早稲田大学名誉教授の暉峻康隆さんは晩年よく麹町のそば屋へ行っておられました。へぎそばを扱う店です。

鵜 海藻(布海苔)の入った、新潟のおそばですね。

― 地方で印象に残ったそばや、他に好きなめん類はありますか。

圓 平凡かも知れませんが、わんこそば。なぜこんな食べ方をするんだろうと思いながら食べちゃう(笑)。ラーメンやうどんはあまり食べません。やはり、そば。毎朝起きて風呂から上がると、以前はビールを飲んでましたが、今はかみさんがゆでてくれたそばを食べます。汁も市販のものに湯を足したり砂糖を加えたりして、私に合わせてつくってくれる。今朝もそばを食べてから新宿の末広亭で高座に上がってからここへ来ました。昔はかけも食べたけど、最近はもっぱらもりですね。種物はてんぷらそばなどが好きです。昔のようにお品書きにしっぽくなどと書いた店は少なくなりましたね。

鵜 東京ではおかめといっていますが、関西のしっぽくとはちょっと違います。

圓 地方のそばといえば、出雲そばも最初に食べたのは東京の神保町でした。後に出雲へ行ったとき食べたら、「東京の方が先なんです」と言われた(笑)。

― 僕には出雲より東京の方がおいしく感じた。あちらは汁がとても甘いんです。

噺家を
志したわけ

第24回 三遊亭圓歌さん 鵜飼良平(日麺連会長) 編集長

圓 立ち食いそばが増えたことで思い出しましたが、昔、北の富士と高見山と三人で郡山へ行ったとき、駅で立ち食いそばを食べていたら、見知らぬ客が「相撲取りさん、偉くなりなよ」と言ってそばを一杯おごってくれた。北の富士は当時すでに横綱。その彼が「ごちそうさまです」と言って、客がおごってくれた一杯もきれいに食べた。客も横綱だとは知らなかったようですが、北の富士は偉いと思いましたね。それを知らない客もすごいけど(笑)。

鵜 師匠はいつごろ噺家になろうと思われたのですか。

圓 私は国鉄職員時代、吃音きつおん だったのでそれを治したくて、たまたま寄席に行ったら吃音の噺家がいて、その人に入門した。それが先代(三遊亭円歌)なんです。彼は新潟出身で吃音だった。昔は、江戸っ子でないと落語家になれないみたいな風潮があったけど、彼は偉かった。訛りがある上に吃音で、「い」と「え」がはっきり言えず、「うえの」を「ういの」と言う。鈴木米若という浪曲師が「佐渡へ佐渡へと草木もなびく」を「佐渡い佐渡いと」と謡ったのと同じです。

鵜 最近は関西の落語家さんが関西弁で堂々と噺をされていますね。

圓 テレビのトークショーで関西弁を話すタレントの影響が大きい。また、「てなもんや三度笠」の藤田まことの影響もあるんじゃないですか。もっとも彼は東京出身だし、茶川一郎も関東出身です。昔は関西で芸をするなら関西弁ができないと難しかった。

― 実際のそば屋と落語の関係はどうですか?

鵜 なぜかそば屋の主人には落語の好きな人が多くて、自分の店を開放して噺家に来てもらって落語会をやっている店がある。

圓 上野のRの親父さんが確か大学で落語研究会出身じゃなかったかな。

鵜 王子の居酒屋のHのご主人がやはり落語好きで、今でも落語会をやっているのでは。

圓 一度だけあそこの会で高座に上がったことがあります。昔、寄席がないときは、そば屋の二階や、風呂屋の男風呂を使って湯船の上に板蓋を張り、高座にして落語会をやっていた。

― そばをたぐる、といいますね。あれは隠語なんですか?

圓 「縄でもたぐるか」は「そばでも食べるか」の意味ですが、今はもう通じませんね。

― そば屋の雰囲気は昔と今で違いますか?

鵜 昔のようにお酒を飲んでそばを食べる人が増えてきています。

圓 ついでに落語会を開いてくれるそば屋さんが増えてくれるとうれしいですね(笑)。

(‘08年1月15日、業会館にて収録)
撮影/STUDIO MAX 高橋昌嗣

楽屋話
 昭和54年に、巨匠・稲垣浩さん原作「地獄の虫」という時代劇の映画が制作された。白黒スタンダードで、音声は音楽のみ。台詞は字幕で、言ってみれば現代版無声映画である。新しい無声映画制作は、弁士として活躍する傍ら、保存する戦前の無声映画の鑑賞会を主催していた松田春翠さんの悲願だった。縁あって、私はその制作を手伝うとともに端役で出演することができた。圓歌師匠も、松田さんとのかかわりで特別出演された。役どころは、小さん師匠演じるご隠居の息子・若旦那である。松田さん、稲垣さん、主演した田村高廣さん、小さん師匠らは、皆あの世、でも、圓歌師匠の話術のおかげでとても楽しい思い出に浸ることができた。

(「酒めん肴」編集長 大槻茂)




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