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第20回 辰馬章夫さん(日本酒造組合中央会会長・辰馬本家酒造株式会社代表取締役会長)

飲む人の好みで楽しむのが日本酒です。

第20回
辰馬章夫さん(日本酒造組合中央会会長・辰馬本家酒造株式会社代表取締役会長)

辰馬章夫(たつうま あきお)
1941(昭和16)年兵庫県西宮市生まれ。63年慶應義塾大学卒業後、朝日麦酒に入社、68年辰馬本家酒造入社、81年同社代表取締役に就任。現在同社代表取締役会長。日本酒造組合中央会会長。西宮商工会議所会頭。西宮ユネスコ協会会長。

初めて食べためんは、
うどんでした

― 関西だと、やはりめんといえばうどんですか。

辰野 昭和20年代、小学生の頃ですが、家に、手回しで圧力をかけると長いうどんが出てくる製麺機みたいなものがあり、いつも夕食にはその機械でつくったうどんが出ました。当時は食糧事情が悪かったので、子どもに少しでも栄養をつけさせたいと考えたのでしょうか。蔵元に出入りする料理人と親が一緒にうどんをつくっていた光景を今でも覚えています。ただの素うどんに卵を落とすくらいのものでしたが、毎晩食べても飽きなかった。おそばは、あまり食べる機会がなかったですね。

― ご出身の兵庫県では出石そばがありますが。

辰野 出石そばは、私も好きです。日本には、その地方の気候風土に合ったそばが各地にある。その点でお酒と共通しています。多彩な日本の食文化のあらわれの一つでしょう。

― 日本酒の現状についてお伺いしたいのですが。

辰野 私が入社した頃は全国に蔵元が三千以上ありました。時代と共に業界の環境が厳しくなり、日本酒の需要もピーク時と比べて半分以下です。外国の酒が入ってくるなどライフスタイルの多様化の影響で、相対的なシェア低下は免れません。それに嗜好の変化も大きく影響しています。

日本酒の良さは
蔵元の多様性です

第20回 辰馬章夫さん(日本酒造組合中央会会長・辰馬本家酒造株式会社代表取締役会長)

― 日本酒は、全国各地に規模の違いがあっても蔵元がありますね。

辰野 日本酒の一番の魅力はやはり多様性だと思います。ビールのように大手の寡占状態ではつまらないでしょう。気候風土から生まれた各地の食文化に合う酒は、消費者に多くの選択肢をもたらします。いろいろな風味を楽しんでいただくのが日本酒の神髄です。各地の蔵元は、小さな規模のファミリーカンパニーがほとんど。長い歴史を持つ文化を伝承しながら、郷土に密着してお客様に楽しんでいただけるところが、日本酒の良さだろうと思います。

― 今後の大手の酒造メーカーの役割は?

辰野 技術的レベルでは先端をいっていますから、品質も安定していて、高級品から大衆品までフルラインで供給できます。そして、あくまでも消費者の選択の問題ですが、どこででも好きな銘柄が飲めるのも大手酒造メーカーの長所ではないでしょうか。大中小の蔵元が、お互いにすみ分けながら違いを認めつつ共存していく。競争は大事ですが、共生と調和を図るのが、組合の使命だと思っています。

― 会長ご自身はお酒の方はいかがですか。

辰野 私は甘党です。酒も甘口好みです。DNAとしては、祖父・父・私と、酒は好きですが量は飲めません。気持ちが良くなりすぎてすぐ眠ってしまう。会社の利き酒はしますが、晩酌にはお猪口一杯ぐらいが適量。毎晩やってます。息子の代になって少し強くなりました。うちは家内の方が強いんです(笑)。

若い人に日本酒の
おいしさを伝えたい

― 和食とお酒の相性はどうでしょうか。

辰野 好みによりますが、和食だからといってすべて日本酒に合うかというとそうでもない。天ぷらなどは白ワイン的な酸味のあるタイプの方が合います。逆に、洋食のステーキなどは日本酒の冷酒 と合わせてもいけますよ。TPOとその人の味覚に応じて選ぶのがいいでしょう。細かく言う必要はないが、知っておくと便利です。若い人は日本酒と出合う機会があまりなく、料理との相性といってもわからないでしょうね。特にファストフード育ちの人は、味覚が少しアンバランス。幼児期から食育によって五感を鍛える必要があります。家庭で本物の食を味わえる感動を育てるべきですね。

― 海外での日本酒の普及は?

辰野 海外では、日本料理、特に寿司などがヘルシーフーズとして注目され、日本酒も料理とのセットで人気があります。それだけに、メイドイン・ジャパンという信頼を大事にしたいと思います。

― 海外でも人気がある和食ですが、その神髄は?

辰野 和食は特に季節感が大事です。洋食文化が広がり、季節感が薄れているのが残念ですが、めん類も季節に応じてメニューが違う。日本酒も季節に応じて多様な飲み方ができるお酒です。ほかにそんなお酒はない。

― お燗の温度を管理してくれるお店が少なくなりましたね。

辰野 私は、お客さんが自分でお燗をして飲むことができるようなお店があってもいいと思います。お客さんが自分流にお燗をする、プロセスを楽しむのです。こうして、最終的にお客さん自身が自分の好みで飲み、価値づけをすることで、日本酒の味は完成するものだと思うんです。日本酒が工場から出荷されるときは半分の価値しかありません。お客さんに飲んでいただく時点で、最高の状態が100パーセントの価値です。

― 最近の外食産業についてどう思われますか。

辰野 これからは外食産業も価格志向でなく、価値志向になる。それに、六〇代以上の人が増えて、健康志向がますます高まります。生活の質を高める時代になる。お酒も旨さと感動を売る、価値志向のマーケティングが必要です。そして、お酒を飲まなかった若い人たちが、ある年代になってから、日本酒や日本料理にあこがれて、その価値を新発見・再発見してもらえればうれしいですね。

(‘07年9月5日、東京新橋の日本酒造会館でインタビュー。協力/日本酒造組合中央会)
撮影/STUDIO MAX 高橋昌嗣




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