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第12回 宮原昭夫さん(作家)

一日一食は、
なぜかそばです。

第12回
宮原昭夫さん(作家)

宮原昭夫(みやはら あきお)
作家。1932(昭和7)年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部ロシア文学科卒業。'63年「ごったがえしの時点」でデビュー。'66年「石のニンフたち」で第23回文學界新人賞、'72年「誰かが触った」で第67回芥川賞を受賞。著作に『あなたの町』『どっこいしょ・えいじゃー』『海のロシナンテ』『しょんべんカーブ』『広間と密室』『まがりかど』『ゴジラ丸船長浮気めぐり』など。本年8月、河出書房新社より『宮原昭夫小説集』を刊行予定。

十割そばの食感が
たまらない

― めん類では何がいちばんお好きですか。

宮原 そばです。いつごろから好きになったのか覚えていないのですが。少年時代から青年時代にかけては、食べられるものなら何でもいい、ボリュームのあるものならなおいい、と思って食べていました。食べ物を選んで食べられる時代じゃなかった。そして、当時は、そばをあまり栄養がないのではないかと思い込んでいました。ところが、気が付いたらいつの間にか、外に出るといつもそばを食べるようになった。周囲の人の影響もなかったのですが……。

― どんなそばがお好きですか。

宮原 外で食べるときだと、まずざるそば。次にとろろそば。汗っかきなので、冷たいそばの方が好きです。ラーメンなどを食べると、夏でなくても汗びっしょりになってしまう。めんは何でも好きなんですが、冷やし中華はだめなんです。だから、必然的に冷たいそばが好きになったのかも。温かいそばなら鴨南蛮が好きです。でも、沖縄に行くと、ソーキ(沖縄)そばを食べます。

― ソーキそばの食感は、日本のそばとは違いますね。

宮原 めんも太いし、そば粉は使っていないけど、好きです。普通の日本そばだったら十割そばで、そば粉が口の中でシャリシャリするような感じが好き。ただし、そば粉十割ではあまり細くはできない。どちらかといえば細いそばが好きなので、これはなかなか出会えない。

お店と食べ方、
流儀はいろいろ

第12回 宮原昭夫さん(作家)

― お出かけになったところで、印象に残ったそばは?

宮原 いわゆる街中のそば屋さんではないのですが、前によくスキーに行った信州斑尾高原のスキー場の下にある古いそば屋さん。そこはそばがきがおいしかった。注文するとそば粉とお湯と器が出されて、客は自分でかき混ぜてそばがきをつくるんです。「死に物狂いで真剣に混ぜるように」と言われて、全身全霊で混ぜる(笑)。それを、わさびと生醤油で食べる。

― 力を入れるから、腹も空いて食欲も出る(笑)。

宮原 それとは逆に、長野県にある店で、二階に上がったら、タバコは吸うな、酒は飲むな、注文などしないでもメニューは決まっている、と言われたことがある。これには参った。精神修養にそば屋へ行くわけじゃない。もちろん、おいしい店もある。偶然入った品川のわりと大きなそば屋ですが、汁が甘くなくておいしかった。横浜だと根岸線沿線においしい店が何軒かありますね。

― 地方で、そばにまつわる何か面白い話はありませんか。

宮原 山形の尾去沢に友達と行って、彼の兄弟の家に立ち寄ったとき、出された手打ちそばが、真っ黒な田舎そばでしたが、これがおいしい。量があったけど、二、三人で全部平らげて「うまい」と言ったら、それならと同じくらいの量のお代わりを出されて、往生しました(笑)。

― 汁とめんでは、どちらを重視しますか。

宮原 やはりめんでしょうね。汁を本当においしいなと思ったのは、先程お話しした品川のお店だけでした。ぼくは、甘いよりも辛い方が好きなのですが、汁で感心したことはほんとうに少ないです。

― そば屋で注文するとき、何か流儀があったらお聞かせください。

宮原 まずざるそばを頼み、同時に焼酎のそば湯割りを注文します。よく行くお店なので、最近は先方がそれを覚えていて、行くと自動的に出てくる(笑)。でも、そばが来てしまうと、置いたままでは乾燥してしまう。だからすぐそばを食べて、そのあと寂しく焼酎を飲む(笑)。そばを肴に酒を飲むのは難しい。酒の肴として取るのはそば味噌ぐらいです。

文章に表現しにくい
味覚の感動

― 薬味は、わさびを使われますか、それとも唐辛子?

宮原 そばだと、わさび。以前、まだ作家の立原正秋さんがご健在だったころ、一緒に食べ歩いたことがある。刺身を食べるときに、ぼくが醤油にわさびを溶かしたら、彼に叱られた。「わさびは刺身に載せて、醤油をつけて食べるものだ」と。わさびが出るたびに彼のことを思い出します。

― 作家として、そばのおいしさを文章で書くとしたら、どう表現されますか。

宮原 難しいですね。味くらい体験を表現しにくいものはない。普通は音楽とか色彩になぞらえて表現する。そうしないと味は表現できない。開高健さんは、視覚的・聴覚的に翻訳していましたが、あれはうまい。ぼくは翻訳が下手なので。

― そのほかのめん類は、いかがですか。

宮原 うどんは何となく「関西のもの」「病気のときにたべるもの」という感じを持っていて、それよりはスパゲティを食べます。一時は凝ってあちこち食べ歩きました。でも、ぼくがおいしいと感じる店は、たいていあとで行くとつぶれている。そういうお店は、味に凝るから採算がとれなくなるのかも知れません。人と一緒に食事をするのに、レストランや和食は面倒な感じがする。やはりそういうときは、気軽に入れるおそば屋さんがいいですね。

(‘07年1月26日、神奈川県藤沢市辻堂のご自宅でインタビュー)
撮影/ 岡本好洋(フリーセクション)




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