 |
めん好き女優、 舞台でそば打ちを体験。
第9回 梅沢昌代さん(女優)
|
|
梅沢昌代
東京都生まれ。1974年文学座の舞台でデビュー。‘94年まで所属。竹内銃一郎、つかこうへい、別役実などの劇作家の作品に出演。井上ひさしのこまつ座公演「父と暮らせば」で、第2回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。以降「紙屋町さくらホテル」「闇に咲く花」「太鼓たたいて笛ふいて」などに出演。‘05年には「箱根強羅ホテル」で第40回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。また「父帰る/屋上の狂人」などに出演。NHK木曜時代劇「慶次郎縁側日記3」にレギュラー出演。
|
至福の時間 おそば屋で一杯
― どのようなきっかけで女優になられたのですか。
梅沢 父はサラリーマンでしたが、若いころ、築地小劇場にも通ったようです。本好きで、家にはシェイクスピア全集なんかもあり、影響を受けていたのかも知れません。高校の演劇部で活動しましたが、下級生に片岡鶴太郎さんがいました。卒業後、文学座に入れていただき、16年間お世話になりました。先輩の太地喜和子さんには、お酒の飲み方も教わりました。
― お父さんは、俳優志願に反対されなかったのですか。
梅沢 文学座に合格した時、父は大喜びで近所のお店に行って、「娘が女優になるんですよ」と話すと、「あら、お姉さん美人ですもんね」と言われ、「いえ、妹の方なんですよ」と答えたとか。すると、お店の人は、「今は個性的な女優さんも多いですもんねえ」ですって(笑)。
― どうしてめん類が好きになったのでしょう。
梅沢 子どもの時、父が深大寺そばや、そばがきをよく食べていましたから、その影響かもしれません。今では、気が向くと家でだしからつくることがあります。
― めんで好きなのは?
梅沢 めん類なら何でも好きです。そば、うどん、そうめん、ラーメン、パスタは、わが家の常備品ですね。
― めん類を意識して食べ始めたのはいつごろですか。
梅沢 井上ひさしさんの「父と暮らせば」という、すまけいさんとの二人芝居で全国を巡った時、すまさんもめん類が好きで、休演日のまだちょっと明るいうちから、二人でここぞというようなおそば屋に入って、暮れていく風景を眺めながら、一杯やる楽しみを味わってからですね。
― お酒はよく飲まれるんですね。
梅沢 はい。新鮮な魚があると、まずは日本酒。あとは何でもありですが、おそば屋さんだと、そば焼酎のそば湯割り。チャンポンしても平気です。初めてお酒を飲んだ時も、水割りを七杯飲んで、一緒に飲んだ人はダウンしてしまいましたが、私はちゃんと家まで電車で帰れました。きっと肝臓がタフなんでしょうね。最近は白ワインを飲むことが多いですね。自宅で飲む時には、ツマミもまめにつくります。納豆、オクラ、シラス、めかぶ、明太子は常備品です。
見知らぬ土地で おいしい店と出会う
― 地方公演で全国を回られ、見知らぬ土地で、おいしい店に出会ったことはありますか。
梅沢 山形県米沢市で入ったYというお店。井上ひさしさんがよく行かれるそうですが、太めのめんの板そばで、汁は辛めです。気持ちのいいお店でした。長崎で立ち寄った、若い人が一人でやっているおそば屋さんも良かったですね。店の構えは特別なものではなかったけれど、店内でジャズを流していて、おそばもおいしくて、感じの良いお店でした。それから長野県上田市のK。この店はおそばが硬めで、量が多かった。
― 作家の池波正太郎さん推薦のお店ですね。店員におそばを量ってもらったら八〇〇グラムありました。
梅沢 長野市の善光寺の通りにあるおそば屋は、どのお店もおいしいですね。この通りには、唐辛子屋さんもあり、山椒や大辛唐辛子を中心に二万円ほどお土産に買って帰り、冷凍保存しています。この唐辛子屋さんには、何度も行ったので、最近は顔を覚えられて、お店の人に「領収書はどうしますか」と聞かれます(笑)。山椒も大辛唐辛子も、おそばの薬味に使っています。両方使う時もあるくらいですから、汁は甘いよりも、辛い方が好きなのでしょうね。
舞台「黙阿弥オペラ」で そば打ちを演じる
― 歌舞伎では、劇中で実際に役者さんがそばを食べる場面がありますが、新劇では何か……。
梅沢 井上さんの「黙阿弥オペラ」を九五年に上演したのですが、この作品の舞台がおそば屋でした。私はおそば屋のおばあさんと孫娘の二役を演じました。劇中でそば打ちをする場面があって、実際におそば屋さんへそば打ちの見学に行きました。劇中ではそば粉を混ぜるところから始まって、演出家の希望で、そば玉を持って飛び出したり、めん棒で延ばしたり、そば切り包丁をふりかざしたりしました。後半は、そばを首からかけて出てきたり。舞台で使う包丁はゴム製なので、実際にそば切りはできませんが、山形のおそば屋さんがわざわざ見に来てくださって、「合格」と(笑)。辻萬長さんが黙阿弥役で、本物のそばを食べる場面もありました。カーテンコールでは出演者が皆、そばを実際に食べているという設定でした。
― 舞台とはいえ、そこまで勉強するのはすごいですね。
梅沢 開店前のおそば屋さんに行って、訳を話して「すみません、見せてください」と。あとはそば関係の本を読んで勉強しました。シアターコクーンでの公演では、劇場のビュッフェでおそばを売ったら、かなり売れたようです(笑)。
― 初めての土地で、良いお店を見つけるコツはありますか。
梅沢 外から見て、古い感じのお店で、しかし、清潔感がある。立ち食いそばも好きで、長野などでは駅で列車の待ち時間によく食べます。でも、まさか芝居の中でおそばを打つことになるとは思いませんでした。
― 好きは身を助ける、ですね。
(‘06年10月2日、シス・カンパニー事務所でインタビュー) 撮影/岡本好洋
|