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音を立てて食べるから、そばはおいしい。
第8回 鈴々舎馬風師匠(落語協会会長)
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鈴々舎馬風
1939年千葉県生まれ。5代目柳家小さんに入門。前座名・柳家小光、二つ目に昇進して柳家かゑる、73年真打ち昇進。76年10代目鈴々舎馬風を襲名。2006年落語協会会長に就任。
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落語の中のそば 音と食欲の関係
― 落語の話から入りますが、小さん師匠は、落語の中でのそばの食べ方がうまかった。
馬風 小さん師匠が、そば屋に入ってそばを食べようとしたら、近くの客が「ほら、そばの食べ方のうまい落語家さんよ」とか言って、見つめている。ホントは汁をたっぷりつけて食べたかったのに(笑)、落語の中の江戸っ子ふうに、やむなく汁をちょっとつけたままで、すすって呑み込んだけど、食べた気がしなかったっていう話があったね。よく噛めなかったんじゃないかな。
― そばは、やはりよく噛んで食べた方がうまい(笑)。
馬風 前に栃木県今市のそば屋で、太いそばに大きな丼のつゆが出てきた。江戸っ子のちょっと汁をつけて、格好つけた食べ方と違い、「がばっと汁をつけて、かき回して! 食べてください」と言われて食べた(笑)。実際、おいしかったけどね。
― その食べ方はすごい。
馬風 いろんな食べ方があるんだな。「のざらし」の釣りみたいにかき回しちゃったりして(笑)。
― 落語で、そばを食べる時の稽古は、どのようにしていますか。
馬風 一応食べ方は教わるけど、あとは師匠のやるのを脇で見ていて真似る。息子の三語楼(現六代目小さん)が、「うどんとそばの食べ方はどう違うの」と師匠に聞くと、やって見せていたけど、あんなにうまくは誰も出来ない。師匠の場合、ホントに食べているみたいに見える。
― 音を立てずにそばを食べるのは、どう思いますか。
馬風 ありゃまずいよ。外人はいやがるけど、静かに食ったそばはまずい(笑)。逆に、あのすする音を聞くと、そばを食べたくなる。スパゲティじゃそうはいかない(笑)。
― フランスの外交官が、日本でそばをご馳走になったけどすすれなかった、と言っていました。
馬風 外国だと音を立てて食事をするのは不作法だと言われるからね。味噌汁なんかでもすする音が食欲をそそるけど、日本人にしか分からない感覚なのかも知れないな。
― 日本では、音って結構、食べ物と関係がありますね。
馬風 お饅頭の食べ方でも、落語では音にして出す(といって実際に師匠がやってみせて)。「オ! 何うまそうな物食ってんだ?」と、隣りの奴が気にする、なんていうのがあるしね。音を立てずに食べると、うまいんだか、まずいんだか、はっきりしなくなっちゃう。
子どものころの 好物は「そばがき」
― 子どものころから、そばはお好きでしたか。
馬風 小さいころは、麺類はあまり好きじゃなかった。その代わり「そばがき」を、特に生醤油で食べるのが好きだった。だから、当時そば屋へ行くと、必ず「そばがき」があるかどうか尋ねた。それから、大人になってからの話だけど、そば屋の日本酒も好きだね。そば屋は良い酒を置いている。そば味噌をつまみながら、日本酒を飲むのがいい。そばのてんぷらもおいしい肴になる。あまり飲み過ぎるとそばの味が分からなくなるから、お銚子二本くらいでね。
― 地方公演をされると、いろんなそばを食べる機会があるでしょう。
馬風 わんこそばや長野のそばもいいけど、山形のそば、これはうまい。地元の人から送ってもらったそばがうまいので、来年も暮れにはぜひあのそばで年越ししたい、と電話したら、送ってくれた人がそば屋と喧嘩しちゃって、手に入らないといわれた(笑)。もりそばで食うと最高だった。
― 山形のそばは、どんなところがお好きですか。
馬風 歯ごたえがあるところがいいね。冷たいもりそばが最高。汁はしょっぱめなので、家で食べる時は、かみさんがちょっと汁を薄くするんだ。
― 西の方のそばはいかがですか。
馬風 出雲そばもいいね。関西、四国ならそばよりうどんだなあ。特に讃岐のうどん。汁に関係なくうどんがうまい。九州だと、なかなかうまいうどんやそばに出会えなくて、やはりラーメンということになる。
― 種物のそばはいかがですか。
馬風 昔は、てんぷらそばやおかめ、卵とじなど、かやくがいっぱいあった方がよかったけどね。今の年齢になると、もりそばが一番だね。
― めん類に関して、何か面白い話はありますか。
馬風 カレー南蛮そばも、一時凝ってね。ずいぶん食べた。近所のそば屋で、冷やし中華とカレー南蛮がおいしい店があって、そばの量が多いのに、注文して五分で届く。それでも少し伸びてる(笑)。それから、そばは量が多くないとダメだね。文句が出る。ちょぼちょぼだと食べた気がしない。浅草に、住吉踊りのあと、天ぷらそばを食べきれないほど出してくれる店がある。ほんとにいいそば屋だ(笑)。
そば屋には うまい酒がある
― そば屋の酒はおいしい、という話がありましたが、どうしてでしょうね。
馬風 店の親父が酒飲みで、吟味しているんだろうね。だいたいどの店でも酒がうまい。つまみは、そば味噌とかてんぷらとか、適当に頼んでいる。酒は冷やがいい。今は体のことを気遣って、酒は控えていますがね。ビールをちょっとくらいかな。
― ほんの一杯くらいなら、ですか。
馬風 いっぱい(たくさん)くらいなら、だな(笑)。
(‘06年9月11日、上野池之端「伊豆榮」でインタビュー。 伊豆榮:東京都台東区上野2-12-22 電話03-3831-0954 年中無休) 撮影/ STUDIO MAX 高橋昌嗣
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