麺類雑学辞典


新そば
 江戸っ子の「初物好き」はよく知られるところだが、これは「初物を食べると七五日寿命が延びる」という俗信が根強くあったためというのが定説で、「初物七十五日」という言葉もある。筆頭は例の初鰹で、高値が高値を呼んだピークの天明期(1781〜89年)には、現在の貨幣価値に換算して一尾10万円以上もしたという。

 江戸ではそばの初物、すなわち新そばも大変な人気だったようで、俳諧や川柳でも数多く詠まれている。なかでも同じく天明期の、

新蕎麦に又生延る長命寺

という句など、まさに極め付きだろう。七五日の俗信に加えて、年越しそばの異名として寿命そばという言葉もあったように、そばにはもともと長寿にあやかれそうなイメージがあったから、新そばとなればなおさらのことだったのかもしれない。しかも、法外な金額で取引される初鰹と違い、そば屋が新そばだからと値段を吊り上げたという話は寡聞にして聞かない。川柳に、

新そばは物も言はぬに人がふへ

 『史記』の「桃季もの言わざれども下自ら蹊を成す」、つまり、徳のある人のもとへは自然と人が集まるという中国のたとえを踏まえて、新そばが次々と客を呼ぶさまを詠んだもの。また、

新そばの給仕廊下でつき当たり

といった繁盛ぶり。ソバはカツオと違い、需要と供給のバランスがとれていたせいもあったのかもしれないが、そば屋はあくまで薄利多売の精神を貫いていたようである。

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