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読んだそばから…


清水義範『蕎麦ときしめん』より “きしめん”


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タイトルのせいか、料理本コーナーに置いてあることが多いが、れっきとした小説だ。パスティーシュ(模倣)文学というジャンルを築いた清水義範のこの作品もやはりパスティーシュで、ミニコミ誌へ掲載した論文に似せて書かれている。設定は、名古屋に転勤してきたサラリーマンが見た名古屋論だ。

タクシーに乗ったら「○○へ行って下さい」ではだめで、「○○へ行ってちょ」でなければならない。運転手の機嫌をとろうと「中日は強いねえ」と話しかけると、「あんなもんいかんわ。選手がみんな馬鹿だで」という応え。だが、その意見に賛同し「釆配が悪いねえ」などと言おうものなら、とんでもないところで「こっから先は歩いてちょ」と降ろされる…、など名古屋出身の作者ならでのユーモアを交えた論文≠ェ展開されていく。

その名古屋を象徴する食べ物がきしめん。「これはうどんの一種だが、麺が異常に平べったく、ちょうどさなだ虫のような形状をしているものである。そのさなだ虫の大群の上に、ほうれん草が少し乗っていて、お汁がどっぷりとかけてあり、更にその上から、花かつおをぶちまけた」食べ物で「まさに名古屋そのもの」を表している。東京のざるそば(人)は、汁(社会)から隔離されていて必要最小限の範囲でかかわりをもつのに比べ、きしめんは「最初からいきなり汁の中にどっぷりとつかっている。個人などというものは、社会の中に完全に埋没しているのである。麺がさなだ虫のように平べったいのは、その方が表面積が大きく、より多くの社会という汁にひたれるからにほかならない」。

きしめんの名の由来は、雉子の肉をいれた「雉子めん」とも、紀州出身の者から伝わった「紀州めん」がなまったものともいわれ定説はない。形状(平打ちうどん)のルーツは、三河の芋川(愛知県刈谷市)の「ひらうどん」といわれ、関東の「ひもかわうどん」は「芋川うどん」が訛ったものという。

論文≠フ第一章は「日本の名古屋は世界の日本」。名古屋ほど日本を表している街はないとの主張だが、きしめんは日本を代表する食べ物ということになろう。



 

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