そばの散歩道トップページへ
読んだそばから…


第12回 宮沢賢治『グスコーブドリの伝説』“蕎麦七十五日”


イラスト

東北・岩手の大自然の中、農業と法華経に生きた賢治が残した童話には、時空を超えた不思議な存在感がある。それは、どこか懐かしい響きの片仮名の名前をもつ登場人物や地名のせいかもしれないし、土や空や木々のにおいのせいかもしれない。

グスコーブドリは、イーハトーヴの大きな森の中に生まれた。が、ブドリ10歳の年、平和な森に異変が起こる、恐ろしいききんがやってきたのだ。父、母、妹と離別し、ひとりぼっちになったブドリは、やがて森を出て行く。

百姓仲間から山師と呼ばれている主人のもとで、オリザ(「ふだんたべるいちばんたいせつな穀物」。おそらく稲のこと)の田を耕すブドリ。周囲の危惧(きぐ)をよそに順調に育っていたオリザだが、ある日突然、いもち病にかかって全滅してしまう。落胆して寝込んでしまった主人は気を取り直し、
『「よし。イーハトーヴの野原で、指折り数えられる大百姓のおれが、こんなことで参るか。よし。来年こそやるぞ/その代わりことしの冬は、家じゅうそばばかり食うんだぞ。おまえそばはすきだろうが。」』

『「さあおれの所ではもうオリザ刈りをやるぞ。」
主人は笑いながら言って、それからブドリといっしょに、片っぱしからオリザの株を刈り、跡へすぐ蕎麦を播(ま)いて土をかけて歩きました。そしてその年はほんとうに主人の言ったとおり、ブドリの家では蕎麦ばかり食べました。』
ソバは救荒作物としてもよく知られている。稲などが凶作のときにも生育し、しかも生育が早い。育ちがよければ2ヶ月ほどで結実する。「蕎麦七十五日」といわれるゆえんだ。賢治の里、岩手県にも「蕎麦は七十五日で鎌を持って行け」ということわざがあるほど。とくに夏ソバは、秋ソバに比べて味・香りは劣るが、収穫量と生育の早さでは勝る。
ブドリの伝説はまだ続くのだが、ブドリとは、ほんとうは自然とともに田畑とともに生きてきた、名もない大勢の人々のことだ。ソバは、そんなブドリたちを支えてきたのである。


 

読んだそばから…メニューへ 読んだそばから…メニューへ トップページへ トップページへ

お問い合わせはこちら お問い合わせはこちら
copyright(c)1998-2007(社)日本麺類業団体連合会/全国麺類生活衛生同業組合連合会