そばの散歩道トップページへ
読んだそばから…


第11回 中 勘助『銀の匙』より “蕎麦饅頭”


イラスト

中勘助は、世間一般には広く知られてはいないが夏目漱石と同時代の作家で、その独創性は漱石に絶賛されていた。彼の代表作ともいえる『銀の匙』は子どもの世界を描いた作品だが、おとなの目で見たり、おとなの体験の中の子ども時代の回想でもない。子どもの体験を子どもの体験として真実に描いた作品として評価が高い。幼い子どもの心の揺れが細かく描写されている。

貞ちゃんという友だちのいる少林寺に、三日にあけず遊びに行くようになった“私”は、寺の中庭にある小さな橋を隔てた離れにいる老僧の存在に気づく。『七十七になる老僧はそこにとじこもって朝夕の看経(かんきん)のほかにはもの音もたてない』石仏のような人で、人間世界と小さな橋を隔てて『寂寞(じゃくまく)と行ないすましている』。この老僧を『敬う念をおこしどうかしてこの人にすがりたいと思いはじめた』私は、お茶の入替えをするなどして近づいたが、話をしたいという思いだけが先にたっていた。しかし、ある日、思いがけず老僧のほうから「絵をかいてあげよう」と声をかけられ、ヘチマの絵を描いてもらうが、それきりだった。

その老僧もその三年後に亡くなってしまう。私は、『昔ながらの石仏のように寂然(じゃくねん)と趺坐(ふざ)している』老僧の前へいって焼香した。『和尚(おしょう)さんが「大往生じゃ 大往生じゃ」といいながら蕎麦饅頭(そばまんじゅう)をぱくぱくくっていた。』
饅頭は小麦粉でつくられるのが一般的だが、蕎麦饅頭はその名のとおりソバ粉でつくった饅頭。といっても、ソバ粉のほかに上新粉を加え、さらに長芋をすり込んで混ぜ合わせてつくることもある。これは、ソバ粉は小麦粉のようにグルテンを含んでいないので、ソバ粉だけではふっくらとソフトに仕上がらないことによるものであろう。


 

読んだそばから…メニューへ 読んだそばから…メニューへ トップページへ トップページへ

お問い合わせはこちら お問い合わせはこちら
copyright(c)1998-2007(社)日本麺類業団体連合会/全国麺類生活衛生同業組合連合会