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読んだそばから…


第9回 泉 鏡花『歌行燈』より 蕎麦屋の酒


イラスト

『高野聖』とならんで泉鏡花の代表作とされるこの作品は、芝居としても親しまれている。
二つの異なった場面が平行してすすみ、さらに時間的な経過も盛り込まれているので、小説で読むより劇として楽しむほうがわかりやすいかもしれない。
さて、場面のひとつは、うどん屋。その軒先で一人の門付が博多節を流している。
『「御免なさいよ」頬被りの中の清(すず)しい目が、釜から吹出す湯気の裏(うち)へすっきりと、出たのを一目、驚いた顔をしたのは、 帳場の端に土間を跨いで、腰掛けながら、うっかり聞惚(ききと)れていた亭主で、紺の筒袖にめくら縞の前垂がけ、草色の股引で、尻からげの形(なり)、にょいと立って、 「出ないぜえ」』 うどん屋の主人は門付の歌を聞きどくに「ご祝儀はないよ」と断ったのだ。だが、じつはこの粋人、客で入ってきたのだった。

『門附は手拭の上へ撥(ばち)を置いて、腰へ三味線を小取廻(ことりまわ)し、内端(うちわ)に片膝を上げながら、床几の上に素足の胡座(あぐら)。ト裾を一つ掻込(かいこ)んで。 「早速一合、酒は良(よ)いのを」』
昔から、そば屋とうなぎ屋の酒は上等といわれている。飲んだあとのそば・うどんは格別だし、好きな人はそばやうどんが肴になるという。注文を奥へ通すときは「さけ」といわず「ごしゅ」というのが本式のようだ。「さけ」は「避け」「裂け」に通じるからだ。符牒や通し言葉については賛否はあるが、客への心づかいは残してほしいものだ。


 

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