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読んだそばから…


第5回 島崎藤村 『夜明け前』より“新そば”


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明治維新前後の動乱を木曽街道馬籠(まごめ)宿の庄屋・本陣である青山家を中心に民衆の側から描いた『夜明け前』は、近代歴史文学の代表作という評価を得ている。

「木曽路はすべて山の中である。」という書き出しが表している、深い山々で囲まれた小さな宿場にも時代の波が押し寄せるのだが、季節は間違いなくやってくるし、民衆の生活は止むことを知らない。

主人公・青山半蔵は、妻お民の実兄の家に次男の正己を養子に出すことにした。「『今夜は、妻籠(つまご)の兄さんの御相伴(おしょうばん)に、正己にも新蕎麦の御馳走をしてやりましょう。
それに、お母さんの言うには、何かのこの児につけてあげなけりゃなりますまいって』『妻籠の方へ御祝儀にかい。扇子に鰹節ぐらいでよかないか』夫婦はこんな言葉をかわしながら、無心に笑い騒ぐ子供等を眺めた。お民は妻籠からの話を拒もうとはしなかったが、さすがに幼いものを手放しかねるという様子をしていた。」

周知のようにソバには夏ソバと秋ソバとがある。もともと収穫時期から呼びならわされた名称だが、早熟の夏ソバ、晩生の秋ソバというような植物上の特徴もあり、両者は区別されている。

夏ソバは初ものでも新そばとはいわず、それは秋ソバのことを指す。全国の産地で催される新そばまつり≠ェ秋に行われているは、その証拠といえよう。また、秋ソバが夏ソバに比べて色・味、香りに優れていて、昔からそば好きはその素晴らしいさを「秋新」などと呼んでいることからもうかがえる。

川柳に「新そばに小判をくずす一トさかり」とある。新そばと聞いては腹の虫がおさまらず、とっておきの小判をくずそうと両替屋へと飛んで行く。江戸・浅草田原町伊勢屋久右衛門の店では、朝から晩まで小判二百枚ほどを両替するのがお定まりのことだったとか。
これも、女房を質に入れてでも初ものを食べたがる江戸っ子ならではの、新そばの祝い方なのかもしれない。


 

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