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読んだそばから…


第4回 林芙美子 『放浪記』より“きつねうどん”


イラスト

孤独な若い女性の生活苦を日記体でつづった『放浪記』は、作者自身の放浪生活を描いた自伝的小説。
一握りの飯を得たいために、仕事を求めて転々と流浪の旅をつづける主人公にも、ときには心のはずむ旅がある。

女学校時代の友人、お夏さんから手紙が届き、『何もかも投げ出して京都へ行きたくなっていた』彼女は、八年ぶりのお夏さんとの再会のため京都へ向かう。

『京極は昔のままだった。京極の何とかと云う店には、かつて私達の胸をさわがした美しい封筒が飾窓に出ている。だらだらと京極の街を降りると、横に切れた路地の中に、菊水と云ううどんやを見つけて私達は久し振りに明るい灯の下に顔を見合わせた。私は一人立ちしていても貧乏だし、お夏さんは親のすねかじりで勿論お小遣いもそんなにないので、二人は財布を見せあいながら、狐うどんを食べた。』

そば台、うどん台に油揚げをのせる“きつね”は、“しのだ”や“いなりそば”などとも呼ばれていて、“しのだ”は“信田”“篠田”“志乃田”などと書かれることが多い。信太山(大阪府和泉市)の森の女狐が安倍保名と結婚し晴明を産むが、正体を見破られて姿を消したという伝説が名称の由来で、とくに関西での品書きに多いという。“きつね”は、大阪では“けつね”と発音するほうが通りがよいこともある。

現在では全国的なメニューになっているが、もともとは関西が発祥の食べ物で、そのためか、そば台を中心とした種ものが多い麺類店のメニューのなかで、これはうどん台で食べるのが本来の姿といわれている。

お夏さんの『貴女ぐらい住所の変る人はないわね、私の住所録を汚して行くのはあんた一人よ』という言葉のとおり、その後もお夏さんの住所録を汚す放浪がつづく主人公なのだが、このときばかりは『女学生らしいあけっぱなしの気持ちで、二人は帯をゆるめてはお替りをして食べた』。

 

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