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読んだそばから…


第3回 伊藤左千夫 『野菊の墓』より“蕎麦の花”

イラスト

民子と政夫の悲恋小説『野菊の墓』は何度か映画になった作品で、「民さんは野菊のような人だ」というセリフは映画のコマーシャル・フィルムなどにもよく使われた。陰暦の九月、母の言いつけで政夫は民子と二人きりで山畑の綿を採ってくることになった。秋は日が短いゆえに仕事を早くすませて帰ってこいとの母の言葉をよそに、二人は時間を忘れて遊んでしまい、帰途には日が暮れてしまう。

『半分道も着たと思う頃は十三夜の月が、木の間から影をさして尾花にゆらぐ風もなく、露の置くさえ見える様な夜になった。今朝は気がつかなかったが、道の西手に一段低い畑には、蕎麦の花が薄絹を曳き渡したように白く見える。こおろぎが寒げに鳴いているにも心とめずにはいられない。』

観察運動がきっかけで児童にも広く親しまれるようになったソバの花は「ソバの花も一盛り」といわれるように、その白い可憐な花にも盛りがある。開花は午前七時から十一時ごろまでに行われ、午後八時ごろ閉花し、受精しない花は翌日再び開く。一つの花としての寿命は短いが、一体のすべての花が咲ききるまでには二十数日かかる。

ソバは株によってメシベの長い長柱花と短い短柱花とに分かれる。メシべに同一株の花粉がついても受精しないし、別の株であっても長柱花同士や短柱花同士は実がならない。しかも気ままな虫による他花受粉のため、受精しない“無駄花”が多い。やせ地にも育つ半面、反当たりの収穫高が少ないという悩みを合わせもっているのがソバという植物の特徴といえる。

ソバの花には八個の蜜線があって、多量の蜜を分泌して高い香りを放つため、蜂がたかってくる。「ソバの花は蜂の酒」といわれるゆえんだ。ソバ蜜は色が黒っぽく味も濃厚で、日本では淡白なハチミツが好まれるためにあまり一般的ではないが、中国やヨーロッパではソバ蜜の独特な風味が好まれている。そのため、かの地ではソバの花を求めて養蜂家が旅をしているという。

 

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