《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

4種類の醤油を
使い分ける


第八十九回 片山虎之介

愛知県の豊橋市には、不思議な名物がある。

その名は「豊橋カレーうどん」。

「なんだ、カレーうどんだったら、不思議でも、珍しくもないよ」などと言うなかれ。まずは、説明のイラストをご覧いただきたい。

丼に入った「豊橋カレーうどん」の断面図だが、上から順に説明していくと、いちばん上には、うどんとカレーが入っている。トッピングにはウズラの茹で玉子。これをズズッと食していくと、やがて丼の底のほうから、とろろが姿をあらわす。さらにその下には、白いご飯が潜んでいるのだ。

つまり、とろろかけご飯の上にカレーうどんが、二段仕込みで重なって入っているということになる。

この、不思議なうどんが評判になり、うどん好きの客が日本全国から訪れるのだという。

豊橋カレーうどんの人気店『大正庵』主人の、清水 稔さんに、いったいどこから、このメニューが生まれてきたのかを聞いた。

「最初は、観光協会の発案でした。豊橋のご当地グルメを作りたいとのことで、自分たちが残業したときにカレーうどんを出前でとって食べて、丼の底に残ったカレーにご飯を入れて食べるとおいしいから、これを名物にできないだろうかという提案をいただいたのです。それを組合で相談して、出来上がったのが豊橋カレーうどんなのです」

このカレーうどん、実際に食べてみると、カレーうどんと、とろろかけご飯と、カレーライスが、一度に食べられるという感じなのだ。私にしてみれば、この三つは、どれも好きな料理なので、それが次々に丼の中から現れて、口の中に広がっていくのは、生まれて初めての体験であり、驚きと楽しさ、そしておいしさが交錯する幸福なひとときだった。

『大正庵』では、カレーうどんも人気だが、そのほかに、評判の良いメニューはたくさんある。

たとえば「にかけ」。これは豊橋うどんの基本ともいえるメニューで、愛知県産の麺用小麦「きぬあかり」で打っている。もちもちした食感と、つややかな麺の質感が特徴の、おいしいうどんだ。

「にかけ」は、味付けの違いで二種類あり、ひとつは淡口醤油を使った「にかけ」、もうひとつは白醤油で調味した「白にかけ」だ。客はそれぞれ、自分の好みで、選んで注文するという。


『大正庵』では、蕎麦の辛汁には、濃口醤油とたまりを使い、「にかけ」などには、淡口醤油、白醤油を使う。4種類の醤油を使いこなすのは、「おいしさ」にこだわるからだ。

さらには「豊橋カレーうどん」のような変化形まで、レパートリーは幅広い。

店には、こんな時代にもかかわらず、客が引きも切らない。




常連客は誰も、それぞれにお気に入りのメニューがあって、いつも同じものを注文する。

4種類の醤油とカレー調味料を使いこなし、それぞれの魅力を最大限に引き出している、清水さんの味の世界に魅せられてのリピーターなのだと思う。


大正庵
愛知県豊橋市南松山町121─2
電話 0532─52─5638

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