《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

京都の食材と出汁が
店の個性を作る


第八十七回 片山虎之介

幕末の慶応2年(1866)、 京都の旅籠「寺田屋」で、伏見奉行所の捕り方が、坂本竜馬を捕縛しようとした騒動は、多くの人に知られる事件である。その舞台となった「寺田屋」にほど近い通りは、往時の雰囲気を残したまま石畳や街路灯が整備され、今では「竜馬通り」の名前で地元の人や観光客に親しまれている。

この通りの一角に、『京乃四季』はある。龍馬が闊歩した時代に、この店があったとしても違和感のない、落ち着いた佇まいの蕎麦店だ。

同店の蕎麦を味わうと、ああ、これが京都の蕎麦なのだという感慨にとらわれる。蕎麦の味の中で、出汁が果たす役割が、飛び抜けて重要なのだ。関東の蕎麦の味とも違う。和食の文化が育ち、花開いた京都ならではの、 見事な出汁の蕎麦である。

主人の瀬川卓史さんは、出汁の取り方を次のように言う。
 「ベースは昆布出汁です。利尻昆布を使います。そこに、うるめ、さば、寒目近を合わせます。できた出汁に、淡口醤油、白砂糖、みりんを加えて味を整えます」

まずは、このようにして、温かい蕎麦の「かけ汁」を作る。

 冷たい蕎麦につける「ざる汁」は、本がえしを作り、それを最低5日間、寝かせる。その後、出汁と合わせ、さらに3日間、寝かせる。

これだけの手間をかけて、『京乃四季』の蕎麦つゆは完成するのだ。

麺についても、こだわりは群を抜いている。冷たい蕎麦は、手打ちで作るが、産地、製粉に気を配り、風味と食感が、この店ならではの特徴を備えた麺になるようコントロールして打ちあげる。

さらに、蕎麦のパートナーと もいえる食材の野菜や魚などにも、細心の注意を払っている。
 「『京乃四季』という屋号は、先代の父がつけたものですが、名前に恥じないよう、京都の四季の食材を生かした味を作るのが、この店の個性だと思っています。日本一のタケノコや湯葉、鱧や京野菜など、季節の旬の食材を手にするたびに、京都という土地で蕎麦屋ができる喜びを感じています」

瀬川さんは、若いころ大阪の名店『美々卯』で修行して、技術を身につけた。

それからずっと蕎麦とは何かを追求し続けてきたが、蕎麦という食材は、知れば知るほど奥が深く、毎朝、スタートラインに立つ思いがするという。
 「私が『美々卯』様を退店する折、薩摩卯一様より戴いたお言葉“一生研究に終り無し≠思い出しながら、これからも蕎麦に生きます」

日本各地に、その土地ならではの郷土蕎麦の食文化があるが、京都の蕎麦の特徴とは何だろう。一見、際立った特徴は見当たらないようにも思える。しかし、そうではない。実は京都には、ここにしかないと言い切れる、明確な蕎麦の特徴が存在するのだ。

 それは一言でいうと、「京料理に伴走する蕎麦である」ということだ。懐石など洗練された料理の食文化が花開くこの地では、どんな料理も、京料理に付かず離れず、適切な距離を保った形でないと受け入れられないという土壌がある。

洗練された蕎麦でないと、京都の蕎麦とは呼べないと言い換えてもいい。

京都ならではの食材を生かすことを店のコンセプトとして掲げる『京乃四季』は、まさしく京都の蕎麦の本流と呼ぶにふさわしい蕎麦店だと断言できる。


京乃四季
京都府京都市伏見区車町271─4
電話 075─621─3368

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