《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

出前のそば料理弁当が
店に客を呼び寄せる


第八十三回 片山虎之介

『蕎麦茶寮 辰吉(そばさりょう たつきち)』は、横浜市の住宅街に位置しているが、付近にいくつかあるいずれの駅からも離れ、立地条件としては恵まれた状況とはいえない。しかし、そのハンディを克服しようと、この店ならではの工夫を重ねているため、付近の住人には熱心なファンが多い。

同店では、手打ち蕎麦を提供しながら、同時に出前にも力を入れている。

最近は、交通事情の悪化などのため、蕎麦の出前をする店は少なくなっているが、『蕎麦茶寮 辰吉』では、店で提供していた蕎麦料理のセットを、出前でも販売するようにした。これが好評を博し、以来、出前の注文が多くなった。今では出前が店の魅力となり、来店する客が増える要因ともなっている。

なぜ、出前をすると、来店する客が増えるのか。

出前で一番人気だという「そば料理弁当」を見て驚いた。想像していたメニューとは大きく異なり、立派な料理のセットメニューになっている。つまり、手のかかった、本格的な日本料理だということだ。それが、高級感のある二段重ねの器に詰めて出前される。

それを食べた客は、美味しさに納得し、「この料理なら店まで行って、作りたてをゆっくり食べてみたい」と、来店するのだという。

店では、出前する料理と同じものを、器に盛り分けて提供する。並べられた料理を見ると、とても出前のメニューとは思えない料理セットとなっている。これを出前してくれるということに、驚くほどだ。

主人の中嶋 巌さんは、蕎麦店やうどん店、寿司、割烹の店などで、合計10年に及ぶ修行を積んだ。手打ち蕎麦の技術は、神奈川県の組合の蕎麦打ちの教室で習得した。だから手打ち蕎麦、機械打ちの蕎麦、うどん、和食など、いずれの料理も手のうちにある。

その技術を生かして、蕎麦寿司や天ぷら、煮物、鴨のローストから、蕎麦のシフォンケーキまで手作りする。

もちろん手打ち蕎麦は人気商品だ。北海道の音威子府や茨城の蕎麦粉を使った十割蕎麦は一日10食限定だが、これを目当てに訪れる客も多い。

手打ち蕎麦は店舗のみの販売で、出前の注文には、のびにくい機械打ちの蕎麦で応じる。

この手打ち蕎麦と、出前で届けられるそば料理弁当のメニューを一緒に味わいたいという客が、店まで足を運んでくれる。

もちろん料理が美味しいから、好評を得るわけで、そこには中嶋さんの並々ならぬ努力がある。一般の家庭で気軽に食べることのできる料金設定で、手をかけた料理を出前するということは、簡単にできることではない。

「お客さんに、おいしい蕎麦を召し上がっていただきたいのです」という中嶋さんのまっすぐな思いが、『蕎麦茶寮 辰吉』の人気を支えている。


蕎麦茶寮 辰吉
神奈川県横浜市瀬谷区阿久和東4─28─53
電話 045─363─6226

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