《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

製粉会社が情報発信する
アンテナショップ


第七十七回 片山虎之介

『司(つかさ)こなや』は、富士製粉産業株式会社が作ったアンテナショップとしての蕎麦店だ。秋田市の工業団地内にある自社の製粉工場のとなりに建てられていて、工業団地で働く人たちに昼食を提供する場となっている。

そもそもアンテナショップとは、顧客が何を求めているかを判断するために実験的な試みを行い、ヒット商品の芽を探す、そういう役割を担う店のことだ。その店を経営することで多くの利益を上げようとは、考えない店である。

富士製粉産業株式会社は、アンテナショップ『司こなや』を通じて、自社が提案する魅力的な蕎麦のスタイルを多くの蕎麦関係者に知ってもらい、富士製粉産業株式会社の顧客である各地の蕎麦店が商品開発を行う際の参考にしてもらいたいと考えている。だから『司こなや』を開店するときは、他の蕎麦店に迷惑がかからないよう細心の注意を払い、周囲に同業者のいない地域を選んだ。

 『司こなや』が提案する蕎麦のスタイルとは何か。それは日本蕎麦の定番とされているメニーを土台にしながらも、さらに広く、食材やアイデアを取り込み、蕎麦好きの人にもっと蕎麦を好きになってもらえる斬新な蕎麦の形だ。

たとえば、今年の夏、初めて提案するのが、冷たい蕎麦に豚キムチを合わせた「パワフル豚キム」だ。一日に提供する数を10食に限定した実験的なメニューである。

つるりと喉越し滑らかな蕎麦に、韓国の味として知られるキムチを組み合わせた。肉は厳選した材料を使い、辛さも日本人の口に合うよう抑制している。

細身の蕎麦と、豚キムチと、それをサポートする海苔、野菜、汁などの味が、バランスよく溶け合い、従来の日本蕎麦にはなかった新しい美味しさを作り出している。

富士製粉産業株式会社代表の橋富士子さんは、このメニューを開発した意図を次のよ うに語る。

「東京の辛い汁を合わせる蕎麦は、東京の食文化や嗜好にマッチした美味しさを作り出していると思います。それと同じように、秋田には秋田の皆さんが好まれる美味しさというものがあると思うのです。たとえば、蕎麦を食べるとき、秋田の蕎麦好きの方は、つゆにどっぷりと浸して召し上がります。そればかりか、おいしい汁ならば、そのまま飲んでしまったりもなさいます。そういった地域の嗜好性を考慮して、例えば蕎麦つゆひとつ作るのも、我々製粉会社ならではの提案の形ができればと考えています。」

町の蕎麦店が、地元の客に喜んでもらえる蕎麦を提供して繁盛すれば、蕎麦粉を卸している富士製粉産業株式会社も、蕎麦店と一緒に繁盛できる。そのためにできることをしていきたいという試みのひとつが、「パワフル豚キムチ」なのだ。

富士製粉産業株式会社は、町の蕎麦店と二人三脚で、蕎麦の世界を元気にしていきたいと心から願い、その仕事に取り組んでいる。

『司こなや』は、すべての蕎麦店のアンテナショップとして機能する店だとも、言えるのではないだろうか。


司こなや
秋田県秋田市新屋鳥木町1─62
電話 018─828─8856

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