《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

「にらそば」は
 にらと蕎麦の食感が大きな魅力


第七十二回 片山虎之介

栃木県の鹿沼市、東武日光線の新鹿沼駅近くに暖簾を揺らす『みっちゃん蕎麦』の、人気メニューは「にらそば」だ。

にらと蕎麦とは、ちょっと不思議な取り合わせだと思う人もいるかもしれない。

栃木県のにらの生産量は全国2位。1位は高知県で、この両県で全国のにらの4割を生産するというから、栃木県にとってにらが、いかに重要な作物であるかがわかる。

栃木県はまた、旨い蕎麦が穫れる蕎麦処でもある。

ふたつの名物、にらと蕎麦を合わせた「にらそば」は、この地域の郷土蕎麦となっている。

『みっちゃん蕎麦』主人、柏崎光子さんは、「にらそば」について次のように語る。

「にらと蕎麦は、珍しい組み合わせですが、地元の人にとっては、ごく普通の食べ方なのです。私が子供のころから、母親が蕎麦を打って、家庭料理として食べていました」

「にらそば」の作り方は、シンプルだ。

手打ちした蕎麦を茹でるとき、一緒に鍋に、にらを入れて茹で、それを水で締めて、ざるに盛れば「にらそば」の完成となる。

「にらそば」を、いただいてみた。。

箸で蕎麦をすくうと、にらがからみあい、一緒に持ち上がってくる。それを口に運ぶ。にらのにおいが気になるかと思っていたのだが、いわゆる“にら臭さ”が、ほとんどない。

やわらかくて、ぬめりのあるにらと、細打ちでコシのある蕎麦。まったく異なるふたつの食感が、意外にも、お互いを引き立てあって調和する。

噛むと、シャキシャキしたにらの食感と、コシがありながら、もちもち感のある蕎麦の食感が、これまた混ざり合って、他の蕎麦では味わえない旨さを生み出す。

なるほど、このメニューは、「食感」が重要な魅力の柱になっているのだなと思いながら、薬味として添えられている揚げ玉を乗せて食べてみる。カリッと揚げられたそのシャリシャリ感が、さらに食感の幅を広げ、厚みのあるハーモニーを響かせる。

ぬるぬる、コシコシ、もちもち、シャキシャキ、シャリシャリ、つるつるという、複雑にして楽しい食感を楽しめるのが「にらそば」だ。

柏崎さんによれば、にらは茹で置きすると、にら臭さが出てくるのだという。新鮮なものを茹でて、すぐに食せば臭みはない。

特に冬の時期は、にらの甘みも増し、食感もやわらかい。

蕎麦も、この時期が、いちばん美味しくなるため、「にらそば」は、2月ころが食べごろだという。

美味しさの柱は食感にあるため、にらのやわらかさや、蕎麦のコシのコントロールは重要だ。蕎麦のつなぎに使う小麦粉も、にらとのバランスを考えて最適なものを選び、さらにヤマトイモと卵を、つなぎとして加える。これで味と食感が、大きく変化する。

蕎麦打ちの方法は、昔ながらの一本棒・丸延しだ。この打ち方は、蕎麦のもちもち感を引き出してくれるため、「にらそば」には、うってつけの技法といえる。

店で供する蕎麦はすべて、長男の野中 忍さんが打つ。一本棒を巧みに使いこなした蕎麦は、見事な出来映えだ。

栃木には、伝統の郷土蕎麦が、人々の生活の中に溶け込んで、息づいている。

「にらそば」は、もっと多くの人に知って欲しい、魅力に富んだ蕎麦である。


みっちゃん蕎麦
栃木県鹿沼市鳥居跡町1416─11
電話 0289─62─1195

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