《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

機械と手打ちを組み合わせ
 毎日40kgの蕎麦を打つ


第六十五回 片山虎之介

『つるきそば佐佳枝(さかえ)支店』の朝は早い。七時半には蕎麦の仕込みを始め、同時に店頭に暖簾をかかげる

作業場には主人の小林寿一さんを含め、5人のスタッフが揃う。一日に打つ蕎麦の量は、粉にして40kg。最も多かった時代は、毎日75kgも打ったという。

大量に蕎麦を打つ方法は、小林さんが工夫してシステムを組んだものだ。

まず、3人のスタッフが、鉢にそれぞれ4.5kgの粉を入れ、水まわしをする。これは手作業だ。

「ミキサーは使わないんです。水まわしは手で丁寧にしたほうが、おいしい蕎麦ができます」
と、小林さんは言う。

水まわし作業が終わると、加水したため重量が増して6kgあまりとなった生地を袋に入れ、足で踏んで延す。

機械にかけられる細長い形に整えてから、製麺機で延す作業に入る。

数回、ロールを通した生地を30cmほどの長さにカットして、それをまな板の上に並べていく。何枚も重ねた生地を、小林さんは、こま板と包丁を手にして、かなりの早さで手切りしていく。リズミカルな音とともに、刃の先から、角のたった蕎麦切りが次々に生み出されていく。

「機械の早さに負けないようにがんばるんです」と、小林さんは笑顔で言う。

手切りする横では、スタッフが機械を使って、次の生地を延している。小林さんが切り終えると同時に、次のカットされた生地が、まな板に並べられるという手順だ。


そのほかに別のスタッフが、機械を使わない手打ち蕎麦も作る。機械も使った普通の蕎麦と、すべて手作業の高級品というランク分けになるのだ。手打ちでは、茶蕎麦など、ちょっと特殊な蕎麦も作っている。

こうして一日に約40kg(粉の段階での重さ)の蕎麦を打つ。その多くは、市内の料亭やホテルなどに納品する。料亭から茶蕎麦の注文が入ったり、「もっと細くしてほしい」などという細かな指示が入るため、手打ちも必要なのだという。

作業の各段階で、材料を無駄にしないよう、工夫されているため、仕事が終わった作業台の上には、切りくずなど、いっさい残っていない。すべての蕎麦粉を、蕎麦切りとして完成させているのだ。

「蕎麦を捨てるのは、大嫌いなんです」と、小林さんはまた笑う。

40kgの蕎麦を、短時間で仕上げるこの作業工程は、実に良く考えられている。機械と人手を組み合わせることで、効率良く、蕎麦の品質を維持しながら、コストを抑えて製品を完成させていく。小林さんの合理的な発想と、それを完璧に実行に移す行動力があるからこそ、このシステムは生かすことができるのだと感じた。

『つるきそば佐佳枝支店』の朝は、7時30分から始まると書いたが、驚くことなかれ、店をしまうのは夜の12時だ。16時間30分という長丁場、中休みなしで店は営業を続ける。以前は午前1時30分まで店を開けていたというが、あまり無理をしてはいけないと、最近、夜の12時には、暖簾をしまうことにしたという。

福井県は、ご存知のように「越前おろし蕎麦」の国だ。『つるきそば佐佳枝支店』の周辺にはビジネスホテルが多く、出張で福井に来た人たちが一杯飲んだあと、締めにおろし蕎麦を食べに来るのだという。だから、深夜のお客さんが結構多い。しかも、その多くがリピーターだという。

常連客を大切にして、廉価でおいしい蕎麦を供する店というのが『つるきそば佐佳枝支店』の目指す姿。一見、小さな店に見えるが、席数は一階に百。二階に百。合計二百人を迎えることができる人気店である。



つるきそば佐佳枝支店
福井県福井市順化1─5─7
電話 0776─24─6352

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