《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

うどん専門店に
負けない
蕎麦屋のうどん


第五十二回 片山虎之介

東京・八王子に、福島県から移築した店舗を使った蕎麦店がある。

蕎麦好きの客の間では、良く知られた『車家』だ。

この店は、蕎麦の評価も高いが、うどんの人気も群を抜いている。インターネットのランキングでは、うどん専門店に混じって上位にランクされている。

うどん専門店に負けない蕎麦屋のうどんとは、いったいどういうものなのか、取材させていただいた。

まずは、食膳に運ばれてきたうどんの、盛り付けの美しさに感心する。

つやつやと輝く、透明感のある麺。その上に配された具材の扱いも見事だ。配色のバランスや彩りが美しくて、なおかつ、いかにも食べやすそうな大きさの野菜が、食欲を刺激する。

見た目の美しさは重要だ。現代の客は、どこかの店に行こうと思ったときには、まず情報を集める。たとえばそれは、インターネットで検索した「うどん人気」というキーワードから導きだされた複数の写真であったりする。

客は、その写真の中から、最も美味しそうな一枚を選び、その店に行くことを決めることだろう。

商品は、まず、見た目の善し悪しで、ふるいにかけられるのだ。これに合格しなければ、客は店に足を運んでくれない。

『車家』の、白く輝く麺を味わってみる。

しなやかな食感、なめらかな口あたり。うどんならではの魅力が堪能できる。

この麺について、『車家』の主人、小川 修さんは次のように語る。

「口あたりが良くなるには、厚みの二倍くらいの幅が必要です。いちばんおいしい形状は、きしめん。あれが真四角だったら、茹でに8分かかります。それを平たく作れば4〜5分で茹であがる。そして、つるっとした感じが出てきます。お客さまが店にいらっしゃって、ご注文いただいてから、商品を提供するまでの時間は、5〜6分以内におさめることが大切だと考えています。それ以上、時間がかかると、お客さまのご機嫌が悪くなってきます」

うどんの食味と、客の気持ちまで考え、そこから逆算して茹で時間など、作業時間を決める。その時間を守るために、うどんを捏ねる程度、寝かせる時間と回数、麺の形状まで考慮して作られたのが、この一杯のうどんなのだ。

さらには、どういう産地、どういう特性の小麦粉をブレンドするかも熟考されている。

単に味が良いというだけの、うどんではない。

あらゆる面から計算され、検証された、『車家』の命運を左右する大切な商品なのだ。

この一杯を食べただけで、他のメニューのレベルも想像がつく。この店のすべてのメニューには、同じ程度の注意が払われていることだろう。

原材料は、蕎麦も、小麦粉も、野菜も調味料も、水までも、吟味を重ねたものを使っている。

『車家』の客室の壁には、小川さんの師である片倉康雄直筆の書が飾られている。

「食はすべてそのもとをあきらかにし 調理をそこなはず あやまつことなければ 味はいすぐれ 身をやしない 病をもいやし よく人をつくる 友蕎子」

この教えは、『車家』の理念そのものだと、小川さんは言う。そう断言できる店だからこそ、専門店にもひけを取らないうどんを供することができるのだろう。


手打ちそば 車家
東京都八王子市越野3ー10
電話 042−676−9505

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