《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

出雲蕎麦をベースに
多彩な蕎麦を工夫する


第四十七回 片山虎之介

日本各地には、それぞれの地域で工夫された蕎麦の食べ方がある。そうした地域独特の蕎麦の食文化は、郷土蕎麦と呼ばれている。

郷土蕎麦には、どんなものがあるのだろうか。具体的に例を挙げると、岩手の「わんこ蕎麦」は、良く知られたところだろう。

「わんこ蕎麦」は、おもてなしの食べ方だ。客人の脇に給仕の人が控え、客が手にした椀が空になると、すばやく一口ほどの蕎麦を、椀の中に投げ入れる。客は、お腹がいっぱいになっても、素早く椀の蓋を閉じてしまわないと、いつまでも給仕が続けられるという、遊戯性を備えた伝統的な食文化だ。

福井の越前おろし蕎麦も有名だ。蕎麦に大根おろしやつゆなどを、「ぶっかけ」の形で、かけて味わう食べ方だ。

地元福井では、蕎麦といえば、おろし蕎麦と決まっている。福井県民には蕎麦好きの人が多く、日常的にたくさんの蕎麦が食べられている。

蕎麦屋さんにとって、うれしい環境だとも言えるが、地元の蕎麦好きの舌は肥えていて、美味しくないとお客さんは来てくれない。うれしいとばかりも言っていられない、手抜きができない厳しい環境だとも言えるだろう。

日本三大蕎麦と呼ばれるのは、岩手の「わんこ蕎麦」、信州の「戸隠蕎麦」、島根の「出雲蕎麦」だ。伝統的な郷土蕎麦の代表格が、この三カ所の蕎麦だと言われている。

東京には、これらの地方に、わざわざ出かけていかなくても、各地の郷土蕎麦を食べることのできる店が何軒もある。

六本木にある『出雲蕎麦 いづ味』も、その一軒だ。伝統の出雲蕎麦の味が、どのようなものであるのか、この店に行くと知ることができる。

店主、鈴木嵩功(たかなり)さんは、店の魅力を次のように言う。

「蕎麦の味を左右するのは、蕎麦粉です。当店では蕎麦粉を、島根県安来の製粉所で挽いてもらっています。昭和39年に当店が新宿で創業したときから、ずっとこの製粉所にお願いしているのです。夜のメニューでは、石臼挽きの蕎麦粉を、外1で打って出しますので、風味の強い、本来の出雲蕎麦の味を楽しんでいただくことができます」

石臼挽きの蕎麦粉は、貴重なため、夜のメニューの中で味わってもらう。

昼のランチメニューでは、ロール製粉の蕎麦粉を使って値段を抑え、お客さんにお腹いっぱい食べてもらえるよう工夫している。

店の立地が六本木という場所柄、出雲蕎麦のほかにも、いろいろな料理を提供している。酒や和食も重要な商品で、需要も多いが、最も大切にするのは、やはり蕎麦のメニューだ。

人気の高い蕎麦のひとつに、納豆を使ったオリジナル商品「納豆」がある。出雲蕎麦の蕎麦切りと、健康食としても人気のある納豆を組み合わせた冷たい蕎麦で、本来の出雲蕎麦にはない食べ方だ。

そのほかにも、東京・深川では貝が名物なことから、温かい蕎麦の具に貝を使った「深川そば」を考案した。寒い季節には、これを目当てに店を訪れる人も多い。

『出雲蕎麦 いづ味』は、本来は島根の郷土蕎麦が看板の店なのだが、東京・六本木の地に根を下ろしてからは、地元の食材を活用して、より魅力的な店へと進化を続けている。

時代の流れに寄り添って成長する、蕎麦店の逞しさを見た思いがした。


出雲蕎麦 いづ味
東京都港区六本木1─6─1
泉ガーデンタワー1階(テラスサイド)
電話 03─3582─2810

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