《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

定年退職後
自家栽培の
蕎麦屋を開く


第四十三回 片山虎之介

『蕎麦鑑定士』養成講座は、いろいろな方が受講されている。「蕎麦のことは何も知らないので、一から学びたいのです」という若い女性や、30年間、蕎麦を打ち続けているという蕎麦屋のご主人。さらにはソバ栽培のプロの農家の方など、蕎麦に興味をお持ちの、実に幅広い方々が、熱心に受講されている。

そんな中に、今年加わった、ひとりの受講生の方のお話をしたい。

お名前は山田誠二さん。岡山県真庭市が出身地で、千葉県で長い間、会社勤めをしていた。

蕎麦が好物で、いつか蕎麦屋を開きたいという思いを、ずっと心の中にあたためていた。

その山田さんが、定年退職を機に、故郷の岡山県に帰り、蕎麦屋を開く決意をした。

そのためには、蕎麦についてもっと詳しくなりたいと、『蕎麦鑑定士』養成講座に申し込んでくださったのが、私との、そもそもの出会いだった。

山田さんが夢見ていたのは、店で提供する蕎麦は自家栽培するというスタイルの蕎麦屋だった。店を切り盛りするだけでも大変なのに、そのうえソバの栽培までしようというのだ。さらに製粉はどうするのか。山田さんの目指す道は、困難を極めるイバラの道だった。

それでも山田さんは、着実に自分の夢に形を与えていった。故郷の近くでソバ栽培をしている人を探して教えを請い、家族や仲間の力を借りて、初めてのソバの種蒔きをした。

約3ヶ月後、畑からは130キロあまりの収穫があった。それを近くの製粉会社に頼んで粉に挽いてもらい、自宅を店舗として使った蕎麦屋『そば処 やま田』を開いたのが、今年の6月のことだった。

開店すると近所の人たちが、毎日80人以上も来てくれたという。

山田さんから『蕎麦Web』に、店のホームページの制作の依頼があったので、私は西日本を取材する際、山田さんの店に立ち寄り、写真を撮影させていただいた。店で供している蕎麦を味見し、いくつか気が付いたことがあったので、感想をお話しした。それを参考にして山田さんは、蕎麦の作り方を少し変えた。

8月の始めから9月の始めまで、約1ヶ月、山田さんはソバ畑で農作業をするため、店を休業にした。

今年は、ソバ栽培は2年目になるので、蕎麦屋の経営より、農作業のほうが少しベテランということになる。山田さんは、昨年栽培したソバの品種に加え、離れた場所にもう一カ所、別の畑を用意して、昨年とは違った小粒の品種も播種してみた。

「どういう味になるか、楽しみでわくわくします」と言う山田さんの顔からは、笑みが消えない。

蕎麦粉の使い方を工夫し、そばつゆの材料なども変えた、新しい『そば処 やま田』の味を、お客さんたちが気に入って、「やま田の蕎麦は、おいしい」という評判がたつといいのだが。開店したあとの、山田さんからのメールが楽しみだ。


そば処 やま田
岡山県真庭市草加部779
電話 0867─42─0727

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