《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

自家製粉で作り出す
個性の粗挽き蕎麦


第三十七回 片山虎之介

『本むら庵』は、自家製粉した蕎麦粉で、粗挽きの手打ち蕎麦を供する店として、蕎麦好きの間ではよく知られている。この蕎麦が食べたくて遠くから足を運ぶ客も多い。

粗挽き蕎麦について、主人の小張勝彦さんは次のように語る。


「粗挽きは、蕎麦の味や香りが蕎麦切りの状態になっても良く残っています。そして、ざらっとした独特の食感も魅力だと思います」

材料の玄蕎麦を産地から仕入れ、自社の製粉工場で自家製粉する。畑で収穫された玄蕎麦を、磨きをかけてヌキを作り、2台の石臼を使って数種類の蕎麦粉に仕上げる本格的な製粉工場だ。このシステムがあって初めて、『本むら庵』の粗挽き蕎麦ができるのだ。

創業は大正13年。当初は、機械打ちの蕎麦の、出前が中心の店であった。自家製粉で手打ちするスタイルに切り替えたのは、昭和40年代。「どうせやるなら、もとからやろう」と、先代の主人、小張信男さんが始めた。今でこそ自家製粉も手打ちも珍しくなくなったが、当時はほかに、こういうことをしている店は見当たらなかったという。

『本むら庵』本店は、東京・荻窪、JR荻窪駅から10分ほど歩いた場所にある。小路を何度も曲がりながら進む、わかりにくい場所なので、初めて行く人は迷うかもしれない。この場所に創業した当時は、荻窪の駅はまだなかった。現在の『本むら庵』のあるあたりが、町の中心部であったのだが、鉄道の駅ができてから駅周辺に店が多くなり、かつて町の中心であった地域は、閑静な住宅街になっていった。


だから通りがかりの人がふらっと入るような立地ではないのだが、客数は多い。平日で200〜300食。休日の多い日には1000食も打つことがあるという。行きにくい場所であっても、店で供する蕎麦の魅力が、人を引き付けるのだ。

粗挽き蕎麦が流行った今でも、それ以前でも、客数に大きな変化はないという。安定した常連客が、この店を支えているのだろう。

人気のメニューは、「天せいろ」や「鴨せいろ」、粗挽きの蕎麦粉で作る「そばがき」など。季節の甘味も注文が多い。

細打ちで透明感のある蕎麦には、点々と黒いホシが入り、打ち手の技量の高さを感じさせる。つなぎは2割。季節や蕎麦粉の状態により加減する。

料理の内容は幅広く、品書きには粗挽き蕎麦から、さらしなの変わり蕎麦まで載せられている。

『本むら庵』は、自家製粉の先駆けというにとどまらず、昭和62年には中国の北京で、日本蕎麦の技術指導を行ったり、平成3年にはニューヨーク店を開店したりと、先駆的な活動を続けてきた。

高い技術で蕎麦の魅力を発信し続けるこの店を、「将来の目標」にしている、若い蕎麦職人は多い。


本むら庵
東京都杉並区上荻2─7─11
電話 03─3390─0325

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