《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

蕎麦を食べて、
いつまでも健康


第三十回 片山虎之介

知り合いの蕎麦店のご主人、Mさんから相談を受けた。

「片山さん、うちのお客さんがね、血糖値が高いのを気になさっていて、もう蕎麦は食べないことにしたっておっしゃるんですよ。蕎麦は、ご飯と同じデンプンだから、血糖値が上がる食べ物だ。だから、もう食べるのはやめるんだってね。私は、何か違うんじゃないか、逆なんじゃないかなあと思うんですけど、ほんとうは、どうなんですか?」

松本さんのお考えの通り、蕎麦は、生活習慣病を気にしている方にこそ、召し上がっていただきたい食べ物である。

蕎麦がなぜ、健康に良いのか、蕎麦の栄養を研究されている神戸学院大学教授の、池田清和先生と、池田小夜子先生に教えていただいた。

池田小夜子先生は、蕎麦のミネラルについて特に深く研究なさっていて、池田清和先生は、蕎麦全般の栄養について研究されている。

おふたりのお話は、以下のようなものだ。

蕎麦のデンプンは、米など、他の穀物のデンプンと比べても、際立って良質なものなのだという。さらに消化されにくいという特徴があるため、食べるとゆっくり消化、吸収される。だから白米を食べたときのように、血糖値が急に上がるということがない。

こうした特性を「GI値が低い」と言うが、米のGI値を100とした場合、蕎麦は56しかない。栄養学において、昔は、消化されにくいデンプンは良くないものと考えられていたのだが、近年は、難消化性のデンプンは血糖値の急激な上昇を抑える効果があるため、評価は一転、良いデンプンと考えられるようになったのだという。

蕎麦には、一般の人には、まだ良く知られていない、健康に良い面がたくさんあるのだ。

ここで、「健康に良い蕎麦」を意識したメニューの例をご紹介しよう。

表紙に掲載した蕎麦は、長野県千曲市にある蕎麦店『つる忠』の「芭蕉そば」。『つる忠』は、田毎の月で知られる姨捨(おばすて)の近くにあるが、松尾芭蕉は貞享5年(1688)に姨捨を訪ね、旅の行程を「更科紀行」にまとめた。

健脚だった芭蕉が、今、仮に『つる忠』に立ち寄ったとしたなら、ぜひ食べさせてあげたいメニューとして考え出したのが、「芭蕉そば」だ。

GI値が低くて、ルチンを豊かに含んだ蕎麦を台に、食物繊維の豊富なキノコや、ビタミンDが豊富な鰹節、多種類のビタミンを含むゴマなど、様々な栄養のある食材を盛り合わせた『つる忠』自慢の一品だ。

そしてこのページに紹介したもうひとつのメニューは、姨捨山の上から眺めた里で収穫される食材を盛り合わせた「田毎の恵みそば」。こちらも、様々な栄養素を持った食材を組み合わせ、健康に気を使う客に喜んでもらえるメニューになっている。

『つる忠』は創業を、江戸、文政年間(1818〜1829)にさかのぼる老舗蕎麦店だ。生粉打ちの細切り、香り高い蕎麦を求めて、県外からこの店を訪れる客も多い。

主人、市川富士さんは、今年83歳になるが、現役で店に立ち、仕事をこなしている。それは長年、蕎麦を食べてきたおかげに違いないと言う。

良い蕎麦は、ひとも店も、元気で長生きさせてくれるものなのだ。


つる忠
長野県千曲市大字稲荷山治田町996
電話026ー272ー1022

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