《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

寒ざらし蕎麦とは、こんな蕎麦


第二十四回 片山虎之介

 福島県、喜多方市の山都町。今から10〜20年ほど前、農家の自宅をそのまま蕎麦屋として解放して客を受け入れ、注目を集めた町だ。当時は山間の小さな集落に、全国から観光客の車が押し寄せ、狭い山道が渋滞したものだった。
 しかし、あの熱狂は、永遠に続くものではなかった。世界的な不況も影響したのか、山都町を訪れる観光客は、近年では減少傾向にあり、観光シーズンを過ぎると山間の集落に、昔のような静けさが戻りつつある。
 だが、もともと豊かな自然と静けさが魅力の町なのだから、僕などはかえって魅力が増したのではないかと思っている。

その山都で、この冬、蕎麦のイベントが開催される。「第15回 会津山都・寒晒しそばまつり」だ。3月 24 、25日の両日行われ、24日には、その会場で『蕎麦Web検定大学』の特別記念講座を開かせていただくことになった。
 昨年の「会津山都・寒晒しそばまつり」は、開催予定の前日3月11日に、あの東日本大震災に見舞われた。そのため未開催に終わったのだ。
 今年は、去年の分も合わせて2年分以上のエネルギーを注入して開催される。会津の人たちの復興への決意を感じさせる祭りになることだろう。

さて、そこで供される、祭りの主役が「寒ざらし蕎麦」だ。これはいったい、どういう蕎麦なのだろう。

簡単に説明すると、秋に収穫した玄蕎麦を、厳寒期の冷たい水に10日間ほど浸けておき、引き上げた玄蕎麦をさらに
20日ほど寒風にさらす。その蕎麦で打った蕎麦切りを、みんなに食べてもらおうという祭りだ。
 いったい、冷たい水や風にさらすと、蕎麦が何か変わるのだろうか。

一般的には、蕎麦の品質が向上するとか、美味しくなると言われているのだが、果たして本当なのか。それを24日の特別記念講座では、お話しさせていただこうと思っている。

寒ざらし蕎麦は、江戸時代、信州・伊那の高遠藩から、徳川将軍家に献上されたという記録がある。蕎麦は庶民の食べ物と思われがちだが、こういう特別な蕎麦は、将軍家でも食べていたのだ。

この高遠藩主であった保科正之は、会津におもむいて、初代会津藩主となった。会津の郷土蕎麦である「高遠蕎麦」も、高遠藩の蕎麦の食べ方が伝えられたものといわれている。会津と高遠は、とても縁の深い地域なのだ。
 その高遠藩ゆかりの、山都の「寒ざらし蕎麦」を、いただいてみた。
 いや、美味しい。まさしく目が覚めるような蕎麦だった。
 今年、山都では、地元の郷土食「こづゆ」をベースに、会津ならではの蕎麦つゆを作ってみた。


会津は内陸にあるため、昔は生鮮の海産魚が手に入りにくく、ホタテの干物を使った料理が郷土の味として定着した。それが「こづゆ」だ。正月や祝いの席では、ホタテの貝柱から出汁をとった「こづゆ」が、どこの家でも振る舞われる。
 その「こづゆ」を濃厚にして、蕎麦つゆとして使ったのだ。この地ならではの発想だ。寒ざらし蕎麦との相性も、なかなか良い。
 今年は会津も例年にない寒波に見舞われた。そのため水に浸けた玄蕎麦は、いつもより厳しい寒さにさらされている。もしも寒さが蕎麦を美味しくするものならば、今年の山都の「寒ざらし蕎麦」の味は、期待していいかもしれない。

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