《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

ソバはこんなふうに大きくなる


第二十三回 片山虎之介

製粉会社を経営しているKさんから、この連載でソバの成長の様子を紹介したら良いのではないかと、ご提案いただいたことがある。なるほど、蕎麦にかかわる仕事をしている方でも、ソバ畑まで足を運ぶ機会は少ないだろう。ソバの成長過程を写真で紹介するのは意義あることだと思うのだが、これが意外に大変なのだ。

僕は日本各地のソバ畑の写真を撮ってはいるが、畑のそばで生活しているわけではない。ソバ畑の撮影は花の時期に行うことが多いので、花の咲いた畑の写真はたくさんあるが、それ以外の季節の写真が少ない。そこで意識して花以外の季節に畑に通い、成長過程の写真をようやく揃えることができた。

というわけで、お待たせしましたKさん。やっとリクエストにお応えできるようになりました。

さて、ここからは、ソバの成長の話である。昔からソバの産地には「ソバは75日で鎌を持っていけ」などという言葉がある。種を蒔いてから約75日で刈り入れできるという意味だ。実際には、畑の状態やその年の天候、ソバの生態型、播種時期などにより、刈り入れの時期は75日の前後に、かなりの幅があるのだが、短い期間で収穫できる作物であることに変わりはない。

畑にソバの種を蒔いてから2〜3日すると、小さな芽が顔を出す。畑のあちこちに、小さな緑の芽がポツポツと出ている様子を目にすると、「命が生まれ出た」という感じがして、ちょっと感動的だ。

それからの成長は早い。3日も見ないでいると驚くくらいの速さで成長し、1ヶ月前後で花が咲き始める。

ソバの花の時期は長い。次々に花が開いていき、最初のころに咲いた花が受粉して実をつけても、まだ新しい花が開き続ける。そろそろ刈り入れをしようかという時期になっても、花が咲いているものがある。

ソバは他家受粉作物といって、昆虫などが媒介することで受粉し、実をつける。花の開いている期間が長いということは、ある時期に雨が降って昆虫が飛んでこなくても、天候が回復したらまた受粉するチャンスが巡ってくるということ。生命力の強い作物だともいえる。そういうところも、昔から救荒作物として、イネが凶作のときに頼りにされる理由だったのかもしれない。

収穫時期が近づくと栽培農家は、「さて、いつ刈ろうか」と、実の色を注意深く観察する。


これもやはり昔からの言い伝えだが「ソバは蠅が3匹たかったら刈れ」などという言葉がある。ソバにはたくさん実がついているが、その中の実が3粒ほど黒くなったら刈りなさいという意味だ。現代の常識からいうと、それはまだ刈り入れには早すぎる。しかし早めに刈り取ると、ソバの実が落ちるのを防ぐことができる。ソバは実がぽろぽろと落ちやすい作物なのだ。

昔の人は、早めに刈ることで、実が落ちるのを防いだのかもしれない。そのあと刈ったソバを束にして畑に立てておくと、ソバの茎から栄養が、実の中に送り込まれ続ける。これを後熟という。後熟させることで、ソバの実はさらに美味しくなるのだ。昔の人は、どうすれば美味しい蕎麦ができるのか、長い経験を積み重ねた結果、良く知っていたのだ。






現在は、コンバインで刈り入れる方法が主だ。そのやり方だと、後熟という段階はない。それが効率良くソバを生産する方法なのだが、昔ながらのソバの作り方がどのようなものであったのか、知っておくのは大切なことである。






トップページへ トップページへ