《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

茶室で味わう武蔵野うどん

第二十一回 片山虎之介

うどんは関西、蕎麦は関東と思われがちだが、関東以北の地方にも、うどんの食文化は栄えている。

良く知られるところでは、群馬の水沢うどん、秋田の稲庭うどん、そしてここに紹介する武蔵野うどんなどがある。

東京都武蔵野市にある『手打ちうどん 若竹』の主人、竹内徹さんの先祖は、8代前に、この地に開墾の斧を打ち込んだ。そのときからおよそ300年続いた農家であったという。

今でこそ武蔵野市には、整備された道路が通り、多くの人々が暮らしているが、江戸開府のころ、武蔵野台地一帯は見渡す限りの原野であった。作物を作ろうとしても、水がなかった。ようやく開墾した畑からは、風が吹くたびに砂埃が舞い上がり、家の中にまで吹き込んだ。

江戸の昔、農民の主食はアワやヒエであり、小麦は重要な換金作物だったため、めったに口にすることはできなかった。武蔵野で鍬を握った人々の、ハレの日の御馳走であったうどんの味を、今に伝える店が『手打ちうどん 若竹』だ。主人、竹内徹さんは、自分の手打ちうどんの師匠は、母であったと言う。

「父の代までは農家でしたが、私が25歳のとき父が他界しました。突然のことだったので途方に暮れました。何かをして生活を守らなくてはならない。私は母の打つ手打ちうどんが、とても好きだったので、いちばんおいしかったうどんを売る店を始めようと思ったのです。ですから、うどん屋としては私が初代になります」

うどんの作り方は、お母さんが行っていたやり方を踏襲した。

その手順はまず、小麦粉をふるいにかけ、粉の中のかたまりを細かくして水まわしが良くできるようにする。

2sの小麦粉に対して、取材した日は水970tを加えた。塩は100g。塩の量は年間一定で、気温や湿度の変化に対しては、加水量を加減して対応する。

鉢に入れた小麦粉の表面に、横に一の字を書くようにして数回、水を入れる。両手で粉をまぜ、また加水する。水は少しずつ、何回にも分けて入れたほうが失敗は少ないと竹内さんは言う。

まぜるとき、両の手のひらを交互に、握ったり開いたりしながらこねるのがコツ。とにかくムラのないように水まわしをすることが大切だという。

水まわしが完了したら、生地をまとめて足で踏む。この作業が、武蔵野うどんの強いコシを生み出すのだ。

生地をたたみなおして、もう一度踏む。それをラップに包んで寝かせておく。

1時間ほどしたら、また生地を踏んで、こんどは30分ほど寝かせる。

そのあと、踏んで寝かせる作業をもう一度繰り返したあと、いよいよ麺棒で延して、切る作業に移るのだ。

武蔵野うどんは、やや太めの麺が特徴のひとつ。店ではうどんを中心にしたコース料理に力を入れて、メニューを組み立てている。食感はやや硬めで食べ応えがあり、噛むと味わい深い武蔵野うどん。客には好評で、席を埋める客は、ほとんどが常連といえるほどだ。

もうひとつ、この店には特徴がある。竹内徹さんはお茶が好きで、表千家の茶道の心得がある。そこで店では茶事を楽しむことができるように、茶室を併設した部屋も用意している。

茶懐石の日本料理は提供していないが、茶事の中でうどんのコース料理を味わうことはできる。いわば、うどん懐石のようなものだ。

『手打ちうどん 若竹』は、武蔵野うどんの幅広い楽しみ方ができる個性的な店である。

手打ちうどん 若竹
  東京都武蔵野市境南町2─6─16
  電話0422─32─5855

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